第28回 70代のベテラン職人と20代の若手職人が共に働く 銀座のテーラーメイド職人たちの学び 中山 由紀雄氏 銀座テーラー 常務取締役 工場長 裁断士 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
21世紀を生きる我々にとって、洋服は大量生産された製品から選んで「買うもの」ですが、数十年前まで、特にスーツは、テーラーで「仕立てるもの」でした。
しかし、既製服の普及により、職人の数も減少、高齢化が進んでいます。
そうした中、手縫いでスーツを仕立てる伝統的な技術を残そうと、若い職人たちを育てる銀座テーラーを取材しました。
銀座テーラーは1935 年創業、テーラーメイドの紳士服を手掛ける銀座の老舗テーラーです。顧客一人ひとりの体型、好みに合わせてデザインを決め、型紙を起こし、裁断します。最高級の生地を使い、ひとりの職人がほぼ全て手縫いによって仕立てるスーツは職人の技の結晶。見えない裏地にまで細かなステッチが施されるなど、丁寧な手仕事が光ります。
職人のこだわりの詰まったスーツは、ふんわり柔らかな丸みを帯び、既製服との違いは歴然。着心地も着る人の動きを妨げずフィットし、一度袖を通すとやめられない、と長年愛用する顧客が多いそうです。
日本に洋服が普及した明治以降、スーツはテーラーで仕立てるのが一般的でした。日本中どの町にも煙草店と同じくらい身近な存在としてテーラーがあり、そこで働く職人の数も多かったのです。
しかし、既製服の普及に伴い、オーダーメイドのテーラーは徐々に減少し、職人たちも高齢化。特にハンドメイドスーツを仕立てる伝統的な技術の継承は難しくなっています。
そうした中、銀座テーラーでは、失われつつある職人の技を残そうと若い職人を育てています。伝統の技術はどのように伝えられているのでしょうか。専務取締役の鰐渕祥子さん、常務取締役で工場長、裁断士の中山由紀雄さんにお話を伺いました。
スーツのできるまで
銀座テーラーのハンドメイドスーツは、銀座並木通りにある店舗の上の工房でつくられています。工房が銀座の店舗と同じビルにあるのは、顧客の要望を直接、つくり手に伝えるため。
工房には、採寸、型紙作成、仮縫いを行う裁断士2 名と、手縫いでスーツを仕立てる8名の縫製士が働いています。そのうち、裁断士2 名、縫製士4名は60 ~ 70 代。そんな大ベテランと共に20、30 代の若手の縫製師4名が働いています。
「スーツの型紙に、直線はほとんどないんですよ。人間の身体は丸みを帯びていて真っ直ぐな部分はないですから」と、型紙を見せてくださったのはこの道40 年の裁断士、中山さんです。
まずは中山さんにスーツの製作工程を伺いました。
〈スーツの製造工程〉
①採寸
顧客に生地を選んでもらい、デザインを決めた後、裁断士が寸法を採る。その際は、なで肩、いかり肩、屈伸体、反身体、左右差などさまざまな身体的特徴を把握。好みの着心地、シルエットなど顧客の要望をできるだけ引き出す。