論壇 「模倣改良産業国家」からの脱却 ̶社会構成主義による人材育成の可能性̶
ものづくりは日本の得意分野だが、実は日本企業がコンセプトをゼロから考えつくり出したものは数少ない。多くは欧米の模倣改良だった。だが環境変化が速くなった今、そうした「模倣改良産業」は通用しなくなってきた。そこで必要になるのが、「社会構成主義」の考え方である。これは、変化する世界に合わせるのではなく、自らがまず世界をイメージし、構築していくという考え方である。
1.悩み深まる日本社会
日本社会の衰退は目をみはるものがあります。20世紀後半には、世界最高水準といわれた優良国家は、恐ろしい勢いでさまざまな分野で退潮し、下落に歯止めがかからない状態にあります。
一人当たりのGDPは2000年に世界3位だったものが、2010年には16位まで後退していますし、国際通貨基金の国際競争力ランキングでも1990年に1位だったものが、2010年には27位になっています。また、個人貯蓄が潤沢にあることで有名だった日本は現在、先進国最低水準の貯蓄率に転落していることをどれだけの人が知っているでしょうか。
これらの統計データが我々の生活に反映されていると感じている人はあまり多くないかもしれません。しかし、我々研究者が、日本社会のいろいろな経済活動の現場に入って詳しく調査してみると、日本の状況は想像以上に悪く、未来の統計はもっと悪くなることが確信できます。
そして、人材育成の問題は、最も大きな問題の一つになっています。日本社会は多様な理由で優秀な人材が輩出しにくい状況に陥っているのです。
2.人材育成の障害となる日本の産業構造
まず、人材育成の問題と我が国の産業構造との関係を説明します。
日本の産業には多様な強みがありました。時計などの精密機械、高い品質の自動車産業、一時は世界市場を席巻した家電、AV製品、70年代以降はコンピューターを中心とするエレクトロニクス産業など、日本の貿易黒字を支えてきた工業製品群が数多あります。
少し辛い認識ですが、それらの我々が得意としてきた工業製品の多くはすでに欧米にある製品の模倣・改良品であったことを忘れてはなりません。日本の企業で生産される多くの商品が、すでにコンセプトや形がある商品を模倣改良し、世界に売り出し、貿易黒字を生み出してきたのです。当初、世界にはそのようなことができるライバル国はなく、1960年頃から2000年近くまで圧倒的優位を享受してきました。ある意味で日本の企業はこのような環境下、世界市場によって育てられたのです。
しかし、状況は一変しました。現在は韓国や台湾、中国、インドなど、模倣改良産業を擁する国が次々と現れ、最近ではバングラデシュといった世界の最貧国すらも日本のライバルとして登場してきています。
模倣改良産業は人材育成に大きな悪影響を及ぼします。模倣改良型産業では、開発コストが圧倒的に安くつきます。日本企業は開発費をかけた気持ちになっているかもしれませんが、世の中にない商品を一から開発し、市場を形成していく方法に比べて模倣改良方式では、一握りの優秀な技術者と、多くの従順な中堅技術者がいれば、商品を世の中に出すことができるため、低コストで開発が済みます。