連載 人材教育最前線 プロフェッショナル編 自律的に学ぶ仕組みを整備し、個人の強みが発揮できる組織を創る
1988年、米ロサンゼルスで創業したトレンドマイクロ。翌1989年の設立から、「日本発の多国籍企業」として着実に成長を続けてきた。コンピュータウイルス対策ソフトは、法人向け、個人向け共に日本国内でのシェア、ナンバー1を誇り、世界市場でも、トップクラスに躍進している同社。事業拡大を支える人材の育成に携わっているのが、人事総務本部 人事部 担当課長 姜南宇氏だ。姜氏は、日本企業の韓国現地法人での人材育成で多数実績を残してきた。グローバルで人づくりにかかわってきた姜氏に、仕事に対する思いを伺った。
経営者の立場で組織を動かす
設立から2年後の1991年に初代「ウイルスバスター」を日本で発売したトレンドマイクロ。1998年に店頭登録銘柄として株式公開し、2000年には東証1部上場を果たした。201年12月末時点で全世界にいる4942名の従業員のうち、日本の従業員数は596名。つまり、海外で働く従業員比率は87.9%と、まさにトレンドマイクロはグローバルに活動する企業。創業から20余年でこれほどの拡大成長を見せた企業は、ほとんど類を見ないといえる。
姜南宇氏が2010年にトレンドマイクロに入社したのも、同社の「自律的に働ける」、「やろうと思えばいくらでも道が開ける」といった企業文化に魅力を感じたと共に、自分がグローバルに展開する企業活動に貢献できる機会があることにやりがいを感じたからだ。
それに、姜氏には経営者の視点で組織を動かす仕事に就きたいという思いがあった。その意味で、トレンドマイクロへの入社は、姜氏にとって刺激的な“挑戦”だったのだ。
実は姜氏のキャリアのスタートは、父が経営する不動産会社である。長男だった姜氏は、跡継ぎとして幼い頃から厳しく育てられたという。自分自身も、それを当然と受け止め、大学卒業後、不動産会社の経営に携わった。しかし……。「やってみたら面白くなかったのです。建物の運用管理が中心の仕事は、“チャレンジ精神”を発揮する機会が少ないと思ったんですね。リーダーシップを持って、大きな組織で自分の強みを試すことができる仕事を求めました」
そう自負できるだけの実績が、姜氏にはあった。
兵役制度のある韓国では、男性は21~30歳までの2年間を軍隊で過ごす。
姜氏も大学を休学し、21歳で軍隊に入った。そして、入隊1年後には年功序列の軍隊組織では異例の人事により、入隊後、最短で部隊長になり、大勢の部下を持つ立場になった。姜氏が若い頃から周囲に認められる存在であったことを裏付けるエピソードだ。だからこそ、もっと大きな組織で自らの力を発揮したいと望んだという。
そして、「跡継ぎは弟に」と、姜氏は父に願い出て、韓国の大手企業ではなくパナソニックへの入社を決めた。「多数の著作に接し、松下幸之助を尊敬していました。経営の神様と呼ばれる人が創った会社に入ることは、自分の人生にきっと役に立つ、そう思ったのです」