新潮流コラム 1 ポジティブ心理学 人とのポジティブなかかわりが組織の活力、個人の幸福感を増す
社員同士の人間関係を良好にするために、企業はどれほどの投資をしているだろうか?人間関係が良いにこしたことはないが、売り上げのほうが重要だ――そう考える経営者も多いかもしれない。だが、ハイクオリティ・コネクション(良質なつながり)がある職場のほうが、活力や幸福感が増すことが実証されている。
組織活性化のカギはハイクオリティ・コネクション
ポジティブ心理学とは、人間のより良い生き方や、人々が最高最善に機能する状態を可能にする諸条件について実証的に研究する学問だ。研究対象は包括的で、個人に限らず、組織や地域社会、そして国家の政策にまで及ぶ。ポジティブ心理学は、アメリカで産声をあげてから10 年強という歴史の浅い分野であるが、その発展の勢いは世界規模で確実に熱を帯びている。
「質」をキーワードにして見ていくと、質は量と比べれば二義的なものという認識では捉えきれない、量に取って代わる可能性を秘めた、最も強力な変数の1つであることがわかる。ミシガン大学ロス・スクール・オブ・ビジネス教授のジェーン・ダットン博士は、組織内・外や組織間におけるあらゆる人間同士のつながりの「質」が、個人ならびに組織としての活力を決定する要因であるとし、ポジティブな関係性の構築または「ハイクオリティ・コネクション」という概念を提唱している。
ハイクオリティ・コネクションが実現されている職場の主な特徴は、かかわり合いを持つ人々が活力に溢れている、お互いに尊重・信頼し合っている、「つながっている」という感覚と責任感を持っているなどのポジティブな相互関係が見られることだ。
また、お互いの存在を活かし合うことによるポジティブな生理学的変化が促されるのもその特徴の1つだ。乳幼児の脳がポジティブな生育環境でしか正常に発達しない(虐待を受けた場合には脳に著しい発育障害が生じる)ことはよく知られている。大人になっても基本的なメカニズムは同じで、ハイクオリティ・コネクションが実現されたポジティブな職場環境にあってこそ、人は自信や活気に満ちた態度で仕事に臨むことができる。正常な判断や、クリエイティブな発想をすることもできる。そのような一人ひとりの行動変容の力が、組織として生産性や創造性を高めていく可能性に貢献することになる。つまり、社員が最高最善に機能するためには、職場にポジティブなエネルギーが循環するような人間関係を形成することが要石となる。