Opinion 2 学習のあり方を問い直し、組織を活性化する
企業が誇っていた強みが、いつの間にか、弱みへと姿を変える――その原因は、学習プロセスの硬直化である。
特に環境変化が激しい現在において、その変化に柔軟に対応できなければ、優位性を獲得した企業もそれを喪失することになる。企業が優位性を維持するためには、変化し続ける能力を構築して組織を活性化した状態にすることが重要になる。
コア・ケイパビリティを刷新していく必要性
企業は日々、他社にない独自の製品を開発したりシステムを強化したりして、優位性を保つために努力している。しかしその努力が逆に、企業の優位性を失わせてしまう場合がある。これに関して、経営学者のレオナルド・バートンは、コア・ケイパビリティがコア・リジディティに変容した結果として、企業が優位性を喪失すると述べた。
コア・リジディティを回避するためには、コア・ケイパビリティを常に刷新していかなければならない。つまり、組織を活性化した状態にしてコア・ケイパビリティを常に刷新することで、企業は優位性を維持することができる。
では、どのような方法で組織を活性化すればよいのか。それを知るためには、まずコア・ケイパビリティの理解が必要である。
コア・ケイパビリティとは、企業の個別資源を活用するための知識体系の中でも、特に固有の知識を包含していて戦略的重要性の高いものをさす(図表1)。「資源ベース論」の流れにおいて、模倣困難な独自の個別資源を企業の強みだとする初期の理論に対して、1990年代以降、企業が持つさまざまな個別資源を組み合わせる能力が重要だという考え方が登場した。いかに企業独自の資源活用能力を構築して企業の優位性を高めるかが重要な論点となってきたのである。
この資源活用能力とは、単一の技術などではなく、それらを活用するための幅広い知識体系を意味する。これらの知識体系が、コア・ケイパビリティ(やコア・コンピタンス)という概念として注目されてきたのだ。
これは、具体的には企業の核となるような独自のルーティンやプロセスとして示される。たとえば、NECにおいては、コンピュータと通信の合流点にあるビジネスチャンスを開拓すべく、技術面とマーケティング面から独自の資源活用能力が構築されてきた。
環境変化により強みが弱みに変わる
ところが、こうしたコア・ケイパビリティを構築するための努力が、実は優位性を失わせることにもつながり得るということが、冒頭で紹介したレオナルド・バートンの指摘だ。コア・リジディティとは、コア・ケイパビリティを生み出す知識構築活動(学習)が硬直化した結果、生み出されたものである。硬直化が生じると、顧客ニーズの変化などへの柔軟な対応が困難になり、企業にとって足かせにもなり得る。
たとえばある企業がブラウン管の技術に優れ、それを核とした知識体系(=コア・ケイパビリティ)を有し、テレビ市場等で優位性を誇っていたとする。この知識体系を強化し続ければ、より優れたブラウン管テレビを生み出すことが可能である。しかし、一方で市場ではブラウン管技術に替わって液晶技術が台頭し、消費者のニーズも液晶テレビに集中するようになったとしたら、どうだろうか。いくらブラウン管技術を核として研究や開発に努力を傾けたところで、テレビ市場におけるこの企業の優位性は失われてゆくばかりだ。つまり、知識構築活動が、これまで強みを生み出してきた狭い領域に限定されてしまったために、コア・ケイパビリティがコア・リジディティに変容してしまうのである。