企業事例2 味の素 理念の具現化、実行を通して人間としての力量を高める
人間力と銘打った教育を行っていなくとも、理念に一人の人間として求められる素養を掲げ、追求していく結果、人間力が鍛えられていくという企業もある。そうした企業の1つが味の素社だ。同社は、創業100周年を機に理念を再定義した。同社の理念には、社員としての有り様だけでなく、一人の人間としても不可欠な素養が含まれる。理念を通して人間力を鍛え続ける同社の取り組みを紹介する。
どんな場所、相手でも実力を発揮する力
社名と同名のうま味調味料で有名な味の素社。2009 年に創業100周年を迎えた同社では、一般職社員の人事制度の基本理念に「実力創出」という言葉を掲げる。
同社で人事部労務グループ長を務める本橋弘治氏は、「実力創出」の言葉に込められた意味をこう説明する。「この言葉には、自分とは全く異なったバックグラウンドの人たちを相手にした場合や、どのような条件下でも、自身が持つ実力を出し切ることができる人材をめざしてほしいという思いが込められています。そうした能力を持っていたとしても、日々の仕事の中で実際に力を出せなければ意味がない。『創出』という言葉には、能力を身につけるだけでなく、それを発揮するという意味も託されています」(本橋氏)
要するに、同社が一般職に求めるのは、環境や相手に左右されない実力を持ち、存分に仕事で発揮できるような人材。1人の人間としての素の力、すなわち人間力を求めているといえる。
そうした、人間力を高めるというメッセージは、一般職だけではなく、味の素グループ全体にも及ぶ。その根幹となっているのが、「味の素グループWay」だ。これは、同社が創業以来連綿と培ってきた“暗黙知”を明文化したものである。その柱は以下の4つだ。
○新しい価値の創造
○開拓者精神
○社会への貢献
○人を大切にする
人事部労務グループ専任課長の高橋壮太氏は、「味の素グループWay」について次のように話す。「当社は、ずば抜けた能力を持ったカリスマ的経営者が存在していたというよりも、無数の現場のリーダーたちが誰も成し遂げたことがない新しいことに果敢に挑戦してきたことで成長してきた企業です。そうした考え方は、味の素社が社員に対して求めている姿であり、身につけてほしい力。そして常に行動に表してほしいものでもあります。そんな『味の素グループWay』は、行動基準であり価値観、すなわち当社の社員に求めている人間としての力量でもあるのです」「実力創出」と「味の素グループWay」に込められた思い・考え方こそ、同社で働く人たちの人間性(=人間力)を形づくる指針だ。こうした力を、同社ではどのように鍛えているのだろうか。