企業事例1 アトラス 働く1人ひとりの人生を豊かにする人間力を育てる
個別指導教室「ユリウス」を運営するアトラスでは、アルバイトの大学生・大学院生を対象に、毎月1回のセミナーを行っている。そこでは、自己信頼と相互信頼を土台とした「人間力」を高めることと、学生の就職活動支援を目的とした講義が行われている。同社の事例から、人間力という広い概念を育てる企業のあり方を学びたい。
学生アルバイト対象の人間力セミナー
小学生・中学生・高校生を対象とした個別指導教室「ユリウス」を運営するアトラス。東京・神奈川・埼玉を中心に45の教室を展開する同社で、生徒を指導しているのが、約1200 名の「指導員」―― 大学生・大学院生のアルバイトスタッフだ。同社では、この指導員を対象に毎月1回の「ユリウスキャリアカレッジ(JCC)」というセミナーを行っている。
こうした定期的なセミナーを行うようになった当初は、他社との差別化を図るという目的があった。個別指導の塾は非常に参入障壁が低い。その中で差別化するためには、指導する学生の価値を高める必要がある。
ただしそもそも、同社で指導員を務める学生の学力レベルは非常に高い。指導員の8割以上が、グループの日能研(中学受験専門塾)の出身で中学受験の経験を持ち、在籍大学も有名校が8割以上を占める。指導する知識やスキルは申し分ない。「しかし、それだけでは子どもを指導するにあたって十分ではないという考えがありました」
こう話すのは、セミナーを導入した総務部 部長の佐藤吉英氏である。「単に教えるだけでは生徒は伸びません。生徒の真の学力向上と精神的な成長のためには、いかに動機づけるか、どう対話し、信頼関係を構築するかといったことが必要になります」(佐藤氏、以下同)。
さらに指導員は、生徒への指導だけではなく、保護者との面談や学習相談、受験相談なども行う。そこで、人と接するうえで重要なコミュニケーションの具体的方法を指導員に学ばせたいと考え、「人間力」に着目して現在のJCCの取り組みを始めるに至ったそうだ。
自己信頼と相互信頼が人間力を高める
同社がJCCを開始したのは2011年春。それに先立って、まず社員を対象に人間力をテーマとした2日間の集合研修を2010 年秋に実施した。「人間力」の定義はさまざまだが、同社の研修では、人間力を「考える力、行動する力、感じる力を合わせた自己構築力」と定義する。「考える力」とは、日々経験する全ての出来事が自分自身の成長のために用意されたものだと肯定的に解釈する力だ。「行動する力」とは、行動の前提として思考・感情があり、それを形成するのは言葉であるという理解に則って、積極的にポジティブな言葉を選択する力のこと。
そして「感じる力」とは、自己とは異なる多様な他者との触れ合いから、その違いを感じることを通して学ぶ力のことだとしている。
この3つから成る「人間力」を育成するためには、第一に「自己信頼」が重要なカギとなる。自己信頼とは、自分の成長可能性と自分の未来を信じる力だ。