Opinion 2 人間社会に息づく『論語』から「忠恕」の心を学ぶ
「人間力」とは非常に幅広い概念だが、多様な立場の人々と深い信頼関係を結ぶ能力と捉えることができる。その「人間力」を考える時、ビジネスパーソンが『論語』から学ぶことは多い。『論語』はまさに、自己と他者という2軸で自らを見つめるための書であり、歴代の為政者、名だたる経営者ら「人間力」に長けた人々に支持されてきた。幼少時から『論語』に親しみ、ビジネス経験を積む傍ら『論語』を学び、現在は企業や教養塾などで『論語』の教えを伝える青柳浩明氏に、『論語』に見る人間力について聞いた。
2500年前のビジネス哲学、『論語』
あなたは『論語』を読んだことがあるだろうか。もちろん、読んだことがなくても構わない。『論語』を読まなくても生きていけるし、ビジネスにおいて今すぐ困ることもない。
とはいえ、現代社会の状況は非常に厳しい。人々を不安感が覆う中、私たちは自己と他人を見つめ、信頼関係を構築するための人間力を身につける必要がある。そのために古来より日本で学ばれてきたものが『論語』である。『論語』は、人間社会において“転ばぬための杖、起きるための杖”、そしてあなたの“心の鏡”になる。『論語』の言葉は過ちを避ける指針になるばかりではなく、落ち込んだ時、失敗した時の励み、モチベーションにもなるものだ。
しかし『論語』というと、道徳論であってビジネスには役立たない、と捉える人がいる。ところがこれは大きな誤解で、ビジネスに役立たないどころか、いわば2500年前に書かれたビジネス哲学なのである。それには、『論語』が生まれた時代背景を考えてみるとよい。
『論語』は、春秋時代(BC771-BC403年)末期の中国で、思想家の孔子(BC551-BC479年)が、弟子たちや当時の権力者に教えた内容をまとめた言行録である。
弟子たちが孔子の下に集った理由は、各国に仕官として勤めるうえで当時必要とされていた技能は当然として、人間学と政治を学ぶためであった。したがって『論語』には、今でいう雇用され得る能力(エンプロイアビリティ)を高める内容が書かれているものなのだ。
さらに、『論語』が生まれた春秋時代というのは厳しい戦乱の時代であった。王朝が衰退し、都市国家が次々と統合されてゆく時代だ。そのような時代に孔子は、春秋末期の約500年前、周王朝の礎を築いた時代の政治や文化を理想として人々に語った。時勢に刃向かえば殺されるような時代に、理想の人のあり方を説いたのである。
こうした厳しい時代に理想や真理を説いた言葉が記されているからこそ、2500 年もの時を超えて読み継がれてきた。その意味でも『論語』は、現代の日本社会で、そしてビジネスで活きる書物だといえるだろう。
『論語』が示す2軸「自己」と「他人」
では、具体的に『論語』には何が書いてあるのだろうか。『論語』を愛読してきた歴代の為政者や、武人、政治家、業績を残した経営者らは数多い。それは、『論語』が人間社会を生きるうえで重要な2つの軸について書いているものだからである。
その軸とは、「自分」と「他人」という2軸――『論語』の言葉でいえば「克己と復礼」である。