Opinion 1 社会を創り上げる人間力は社会の中で育てられる
「人間力」は多くの人に語られ、解釈もさまざまに異なる。そこで、1つの指針として、2003年に教育、産業、労働・雇用の関係者が集まって討議した「人間力戦略研究会」の議論、定義を取り上げたい。当時研究会の座長を務めた東京大学大学院の市川伸一氏に、教育界の立場から、人間力とは何か、そしてどう高めれば良いかを聞いた。産官学の壁を超えて論じられた人間力の議論から、企業も多くを学ぶことができる。
3.11を経た日本で求められる人間力
2002 年11月から2003 年3月にかけて、内閣府は「人間力戦略研究会」を設け、産業・教育・労働雇用という多角的な視点から、「人間力」に関する議論と提言を行った。
それから10 年経った2012 年の現在、「人間力」はますますその重要性を増しているように思う。
2003 年の人間力戦略研究会では、「人間力」を「社会を構成し運営するとともに、自立した1人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義した。この「社会を構成する」という言葉には、単に、既存の社会に同化するのではなく、「自分たちの手で創り上げる」という意味が込められている。
まさに現在、3.11の東日本大震災を経験した私たちにとって、社会を創り上げるということは、差し迫った現実の問題といえるだろう。日本の復興のために自分たちが何をすべきかを、当事者として考え行動しなければならないということが改めて顕在化した今、そうした、主体的に発揮する「人間力」の必要性が、より一層差し迫ったものとして問われているのではないだろうか。
そこで本稿では、「人間力戦略研究会」の議論を振り返りながら、今、「人間力」を高めるためにどのようなことをすべきなのかを考えたい。
人間力の構成要素と求められる場面
人間力戦略研究会では、「人間力」は次の構成要素から成るとした。
①「知的能力的要素」:基礎学力を土台とした論理的思考力や創造力
②「社会・対人関係力的要素」:コミュニケーションスキルやリーダーシップ、公共心
③「自己制御的要素」:意欲や忍耐力、自分らしい生き方を追求する力
これらの要素を総合的に向上させることが人間力の向上につながっていくが、とりわけ重要なのは、これをどこで発揮するかという点だ。