連載 ID designer Yoshikoが行く第69回 ジャパンリスク in チャイナを 阻止する手立ては?
ファッションデザイナーであり、アパレル・メーカーの社長であり、都内3か所のブティックとカフェの経営者でもあり、さらに元気いっぱいの高一男子の母でもあるIさんが、近ごろ浮かない顔をしている。珍しいことだ。
Iさんが、中国から日本に来たのは1990 年のこと。ハルピンの裕福な家庭で育ち、カナダの大学を出たばかりの「世間知らずのフツーの女の子」だったが、留学先で知り合った日本人の友人に誘われ、「アジアでイチバン豊かで、イチバンおしゃれな国にちょっと遊びに~♪」と観光気分で来日した。
当時の日本はバブルの絶頂期。デザインも品質も中国とは比べものにならないゴージャスなメイドインジャパンが溢れていて、道行く女性をうっとり眺め、銀座通りのショーウインドーを覗くだけでも、一日退屈しなかったほどだ。
百貨店の開店時には店員が揃って最敬礼し、有名な歌手が「お客様は神様です!」と叫ぶ様子にびっくり仰天。「資本主義のサービスとはこういうものか!」と感動した旅の後は、すぐに中国の日常に戻るはずだったが、数週間の『東京の休日』が、海外でデザインを学んだ彼女のアーチストとしての情熱と起業家としての野心に火を着けたらしい。
日本語を習得して再来日した後は、アパレル・メーカーのデザイナー⇒ブランドの立ち上げ⇒日本人実業家と結婚⇒中国に縫製工場建設⇒出産⇒直営店オープン、と充実した20 年を過ごしてきた。
その、いかにも大陸的な大らかさと度胸を合わせ持つ彼女が、こんなにヘコんでいるのを見るのは初めてのことである。「チャイナリスクの影響か?」とハラハラして聞くと、なんと意気消沈の原因は「ジャパンリスク」なのだという。