TOPIC-② ヒューマンキャピタル2010 特別シンポジウムレポート 『いま日本企業の人事・人材開発部門が構築しなければいけないもの』個と組織を活かすために人事が持つべきビジョンとパッション
企業の人材・組織戦略のための専門イベント「ヒューマンキャピタル2010」が7月7日から3日間、開催された。特別シンポジウム『いま日本企業の人事・人材開発部門が構築しなければいけないもの~2020年を見据えた人事ビジョンを考える~』では、慶應義塾大学花田光世教授の司会により、人事・人材開発の最前線で活躍してきた秋山裕和氏、飯島英胤氏、横山哲夫氏をパネリストに迎え、これからの人事が持つべきビジョンが示された。
新たな人材開発の潮流と人事の役割
高度経済成長時代、バブル崩壊といった変化の中で、日本企業の人材育成に対しては多種多様なアプローチが導入されてきた。そして今、グローバル化の中で、人材の育成をトータルに支援する、人事施策も含めた多くのパッケージプログラムが提案されている。
慶應義塾大学教授の花田光世氏は、果たしてそうしたパッケージプログラムによって、多様な個人をマネジメントすることが可能なのだろうかと疑問を呈し、今回のシンポジウムの趣旨を次のように説明した。
「パッケージを導入するのであれば、メリットや、どのように活用していくのかを十分に検討する必要があります。当然、導入を慎重に検討する企業が大半だとは思いますが、人事の現場において、グローバル競争への対応という大きな課題を前に、個別パッケージをそのまま採用する傾向があるのも確か。今回は、細かなテクニックではなく、それらのテクニックを活用してこれからの人事・人材開発はどうあるべきかという大きなビジョンについて、掘り下げて考えたい」(花田氏)
趣旨説明を受けて、パネリスト3氏よりショートプレゼンが行われた。パネリストは、日本電気顧問の秋山裕和氏、東レ特別顧問の飯島英胤氏、組織・心理開発研究所代表の横山哲夫氏の3氏。いずれも、1970年代から1990年代の日本企業で、当初は人事担当者として、そして部門責任者として、さらには経営的な視点から組織・人材の基盤を構築してきた人々である。それぞれの経験から、日本企業の人事・人材開発部門の課題が語られた。
ショートプレゼン① 今求められる人事制度改革の視点
日本電気 顧問秋山 裕和氏
秋山氏が人事部門の現場担当者だった1980年代後半から1990年代にかけては、日本企業の大きな転換期であった。
第一の大きな波はグローバル化だ。終身雇用、年功序列、企業内組合といった日本企業の特徴を見直す大きな動きがあり、人事制度は「人材の流動化」「成果主義」「多様な雇用形態」という今日にも続く方向へと転換した。そこにバブル崩壊後の長い不況という第二の波が押し寄せた。
「その結果、個人と組織の関係をより良くするはずの各種施策が、失業率の悪化、社員のモラール低下といった、予期しなかった悪しき影響を生み出してしまったんです」(秋山氏)
一方同時期の米国は、1970年代の不況から脱却し活気がみなぎっていた。そこで秋山氏は、1995年から2004年の間に欧米企業40社を訪問。その経験から、日本では競争のみを重視していると思われがちだった米国企業のHRMの基盤の1つに、「人間重視の経営」があることを見出した。
「人間重視の経営は、欧州や日本にも共通するグローバルスタンダードだとも言えます。それが各国の各企業それぞれの特性に合った形で制度化され、機能していました。その姿を見て私は、従来の日本企業のやり方を否定するのではなく、日本の特性を前提とした、日本ならではのHRMを構築すべきだと実感しました」(秋山氏)
それでは日本企業の特性とは何か。勤勉さや高い学歴水準に加えて、特に欧米企業が注目してきたのはチームワークだ。それを活かすために、今、日本の人事部門に必要な視点は、「組織を駆動するリーダーシップ」だと秋山氏は主張する。