論壇 目的を熟考し、未来から考える 解決困難な課題は“ブレイクスルー思考”で考えよ
一筋縄ではいかない課題が、職場には溢れているようにも見える。人や組織にまつわる課題が、なかなか解決を見ないのは、私たちの今までの思考が、そもそも合っておらず、解決に向かわないのではないか。従来とは全く違う思考も学び、使い分けていくことが必要なのだ。そこで、あらゆる制約をとっぱらい、目的、未来志向で考える新しい思考を紹介したい。
1.ブレイクスルー思考とは
次のような成功例に共通するものは何だろう?――エアコンのムーブアイ、セブン&アイ・ホールディングスの経営、大分県臼杵市の行政――こうした変革や開発を可能にするもの、世の中に3~8%存在するという超ハイパフォーマーの脳内に存在し、外部からは全く見えないあるもの……それが今回紹介する「ブレイクスルー思考」である。ブレイクスルー思考(以下BTT)は南カリフォルニア大学のG・ナドラー教授と中京大学の日比野教授が1980年代に米国で共同提唱した思考である。彼らは世の中にわずかに存在する優れた成功者や実践家の思考プロセスを研究し、それを誰もが使えるよう体系化した。そして混迷・激変・乱気流時代などといわれる21世紀に向けて、従来の思考“デカルト思考”では解決困難なさまざまな問題に解決策を与えてきた。考えてみてほしい。組織・人材に関連する多くの問題が、従来の思考法をもってして、根本的な解決に至っているだろうか――なかなか解決をみないのは、問題によって、従来とは別の思考で考える必要があることを示している。従来の一般問題解決モデルでは、要素還元主義、あるいは機械論的な立場に立つ。そこでは万物は要素に分解でき、その要素(部分)の和が全体であると認識する。そこでは、万物の本質はあくまで明示的な「事実・真実」、また真実は一つと捉えられ、そこから導かれる解決策は唯一の正解、どこにも通用する普遍の解(一般解)とされる。これに対しBTTでは、万物を、「ある目的を持った構成要素が相互に関連し合って全体性をなす1つのシステム」と認識する(システム観)。また万物の本質を、その時その場でそれにかかわる人間の「目的」と捉える。そして万物はそれぞれ独特の存在であり、表面的には同じに見えてもそこには必ず違いがあると考える(ユニーク差の原則)。この2つの思考はどちらも正しく、どちらかが間違っているということではない。上述のように思考の前提となるパラダイム(認識)が違うだけであり、私たちはこの2つの思考を上手に使い分けなければならない。世の中の問題を「原因・真理追究の問題」(例:なぜ営業成績が上がらないのか)と「企画・計画の問題」(例:いかにして営業成績を上げるか)の2つに分類すれば、前者は、なぜなぜなぜ、と考えていく思考が必要であり、科学の世界や学校教育のように普遍の法則や唯一の正解を導こうとする。よってこちらには従来の思考が適用されるだろう。