調査レポート:「経営を推進するHRのあり方」より トップの関心、熱意を活かし経営目線の人材開発を
グローバル時代、自社の差別化、優位性を高められるか否かは人事の腕次第だ。とはいえ多くのHR 部門では、経営変革への対応に苦戦しているのが現実だ。トップとHR の足並みはなぜ揃わないのだろうか。その実態を確認し、一歩を踏み出すために実施されたのがこの調査である。明らかになったのは、具体的なアクションに表れていない、経営者の人材開発への関心、そして熱意だった―トップとの乖離を克服し、「戦略人事」へと脱皮するためのヒントを探った。
はじめに
グローバル化や技術革新など、ビジネス環境がスピーディーに変化する今日、経営も事業戦略をスピーディーに変更することになる。
しかし、戦略を実践するのは“人”であり、人が育つまでには一定の時間が必要である。競争優位の源泉が人にある多くの企業にとって、自社の競争力を今後も維持し、高めていくために「どのような人材が必要か」「どう育てていくべきか」は、非常に重要な課題である。HR部門がいわゆる「戦略人事」であることが求められる理由はここにある。
「戦略人事」とは、人事実務やイレギュラーな対応をすることではなく、仕組みや制度といったインフラを設計、運用することでもない。変化に対応し、中長期的に自社の優位性を実現する人事施策を期待されるのが戦略人事である。
しかし、その一方でHRが最も変化への対応に遅れている、ともいわれている。また、HRは業務や年度スケジュールの遂行に多くの時間を取られ、新たな取り組みに対し躊躇がある、という話もよく聞く。
確かにそれは現実的なハードルではある。だが、我々はそれ以上に、以下の2つの点が課題であろう、と考えている。
○人事課題を感じていても、具体的な対応や行動に落とし込めていない経営者や事業責任者が多い
○「変更された戦略の本質の理解」という過程を飛ばして施策に取り組んでおり、その結果、経営目線に乏しい人事・人材開発施策になってしまう
経営者とHR。キーマンはこの二者であり、どちらか一方が変わることを期待するのではなく、双方が距離を縮め、連携して人事施策をプランし、実行していくことが必要だろう。
そこで経営と人事の連携の実態を視覚化し、解決への一歩を踏み出すきっかけとするために、この調査「経営を推進するHRのあり方」(実施期間:2014年4月/調査対象:上場および未上場企業の人事担当者/有効回答社数:184社/調査方法:インターネット)を実施した。
1 施策に落とし込めないトップの熱意
まず、自社の経営者は人材開発への熱意と責任感を持っているか、という質問を行った。
図1「あなたの会社の経営者は、人材開発に熱意と責任を持っていますか」を見てほしい。
「十分持っている」(30%)、「まあまあ持っている」(42%)という肯定的な回答が合計72%となり、全体の7割以上を占める。
規模別に見ると、従業員規模1001名以上の企業では「(十分・まあまあ)熱意と責任を持っている」という回答が8割を超えた。他の従業員規模の企業の回答と比べ10%以上高い。
従業員数規模の大きい企業のほうが、従業員と直接かかわる機会は相対的に少なくなるはずだが、他のさまざまな手段を講じているということだろう。
従業員数301名~1000名規模の企業では「(十分・まあまあ)熱意と責任感を持っている」という回答の合計は3つのカテゴリーで最も低いものの、「十分持っている(36%)」という回答の割合が、「まあまあ持っている(30%)」を上回った。他の企業規模と回答の割合が逆転している点は特徴的だ。
多くの企業で経営者の人材開発への熱意と責任感が認識されている一方で、討議頻度を尋ねると、頻繁に(月2回以上)行っている、とする回答は約1割にとどまっている(図2「人事部門と経営者との間で人材開発に関する討議(ヒアリング・すり合わせ・意見交換など)の頻度はどのくらいありますか」)。
経営者とHR部門の間の人材開発に関する討議があまり行われていないようだ。