読者提言 論壇 ~「見せ方」の工夫で周囲への影響力を高める~ コンピテンシーの発揮の仕方
多くの企業がコンピテンシーによる人事制度を導入しているが、十分に活用し切れていないケースをよく目にする。コンピテンシーは、正確に理解し、職場で実践することで、誰もが効果的にリーダーシップを強化できる格好のツールだ。数多くのリーダーに対して実証されている活用法を紹介したい。
コンピテンシーへの誤解
「コンピテンシーを向上させれば仕事の成果につながるのですか?」「コンピテンシー」について、こうした懐疑的な声を聞くことがある。しかしコンピテンシーは、正しく理解し実践すれば、誰もが効果的に成果を導く格好のツールであることは間違いない。これは私自身、年間何百人ものリーダーにフィードバックを提供する中で実感してきたことだ。
人材育成の現場で日々痛感するのは、コンピテンシーという言葉が明確な定義もなしに、単に「能力」や「スキル」といった意味で遣われていることが少なくないということだ。コンピテンシーがビヘイビア(行動)を指すことすら理解されていないケースも見受けられる。コンピテンシーをうまく活用して部下を指導しているマネジャーにも、ほとんどお目にかかったことがない。
そこで本稿では、コンピテンシーの活用法――行動の「見せ方」を少し変えることで大きな効果を生み出せるコンピテンシーの使い方をお伝えしたい。
コンピテンシーが重視される理由
改めて定義すれば、コンピテンシーとは「高い業績を上げている人の行動特性」のことである。さらに付け加えれば、「他者が見て取れる(観察可能な)スキルや能力などの行動様式を特性として整理したもの」である。コンピテンシーは、目で見える行動でなければならない。なぜなら、成果は行動から生まれるからだ。
コンピテンシーが日本の人事関係者の間に流通するようになったのは1990年代末から2000年代にかけてのことだ。当初、コンピテンシーは、人事考課や昇進・昇格といった場面で使用することを目的に企業に導入された。しかし今では、主に人材育成のために活用されて(されようとして)いる。競争が激化する市場において、高い業績を上げて組織を成功へと導く人材の重要度が、これまで以上に高くなってきているからである。人材の能力を向上させるために、客観的かつ具体的な指標となるコンピテンシーが重視されるようになっているのだ。
この時、過去の成功体験に基づいた人材育成を行うのではなく、現在あるいは将来において組織が必要とする理想の人材モデルを設定し、その成功要因となり得る行動様式を定義することで、論理的な人材開発のアプローチが可能となる。これは社員にとっても、理解が容易で行動に移しやすい具体的な指標となる。
行動特性や行動様式などと聞くと難しい印象を受けるかもしれないが、何のことはない、誰もが仕事中に実践している日常的な行動のことだ。さらにいえば、望ましいコンピテンシーを発揮するには大変な労力を要すると思われがちだが、そんなことはなく、実はほんの少し言動を変えるだけで済むことが多い。
4つの大きなくくりで特徴を把握
コンピテンシーを望み通りに発揮できるようになるには、まず、発揮したいコンピテンシーの優先順位をつけることである。複数のコンピテンシーを一度に発揮しようとすると大変で、挫折しやすい。そこで、限られたコンピテンシーにフォーカスし、徐々に増やしていったり、幅を広げていくことをお勧めしたい。その際に参考となるのが、スーパーファクターと呼ばれる大きなくくりである(図表1)。