論壇1 社長の気持ちが社員に届く 「ビジョン検定」のすすめ
多くの企業が頭を悩ませている「経営理念の浸透」や「ビジョンの共有」。
これらの浸透度を見える形で測ることは困難を極める。
そうした問題を解決する一助となり得るのが「ビジョン検定」という経営改革手法だ。
これは、検定試験方式の問題を解くことで、会社が大切にしている価値、社員に求めている行動や考え方を深く理解させたり、そのためのコミュニケーションをとることができるという。
その方法と効果とは。
戦略原理主義の時代は終焉の兆しを見せ、より抽象度の高い「経営理念の浸透」や「ビジョンの共有」にビジネス社会のニーズが移行しつつあります。この背景には、“戦略策定→個々人の役割と成果の明確化→結果の評価→報酬への反映”という合理的かつ直線的な経営よりも、価値観や実現したいイメージ(ビジョン)によって組織を緩やかに方向づけ、個人にある程度の自由度を持たせるほうが、グローバルで変化の激しい経営環境にはフィットするという認識があるようです。そんなことから、現在は多くの企業で経営理念の浸透やビジョンの共有が重点課題になっているわけです。しかしながら、理念の浸透やビジョンの共有とは具体的にどのようなことなのか、どのような方法で浸透させるのか、浸透度や共有度はどう測定するのか等については、これまできちんと語られてこなかったのではないでしょうか。ともすれば“理念ブックを作成して読み込んでもらう”“理念を全員で唱和する”“飲み会で気持ちを合わせる”といったアクションで終わっていたのではないかと思われます。そこで、経営理念を全社員に浸透させていくための新しい経営手法として提案するのが、「ビジョン検定」です。これは、経営理念やビジョンの実質的な浸透度や共有度を測定することで、理念浸透の取り組みをより具体的な成果に導くことのできるものです。次項では、「ビジョン検定」の詳しい内容に入る前に、そもそも経営理念が重要であるということの意味を確認していきます。
1“経営理念が重要”とはどういうことか
かなり昔のことになりますが、私の社会人最初の仕事は、“社長スピーチの原稿を書く”というものでした。その時先輩から、「内容の7~8割はいつもと同じで良い。経営理念やビジョンを実現するために必要な“行動や思考のあり方を方向づけるキーワード”を、手を変え、品を変えて繰り返せ」と教わりました。そこでまずは社長の社内向けのスピーチを収録してあるテープをたくさん聞きました。すると社長は確かにいつも同じことをいっているのです。「 ピンチはチャンス「」競争が大事「」身分不相応への挑戦を続けろ」「走りながら考えよ」「巧遅より拙速」「わからないことはお客様に聞け」「人と違うことを、人と違うやり方で」「偉大なるアマチュア集団であれ!」これらのキーワードは、経営理念やビジョンそのものではなく、経営理念やビジョンを実現するために社員に求められる価値判断基準や行動基準を示す言葉なのです。たとえばスピーチで、「品質第一」という経営理念について話す時には、「商品の原材料の中に、疑惑のある物質が混入している恐れがあった。その商品が出回る寸前に、製造部長が営業部の反対を押し切って出荷を止めた」といった実際の例を使うことがよくあります。その結果、同じ原材料を使った他社が不良品の山を築き、消費者からの信頼を失ったのに対して、我が社のブランドは守られた、ということを、臨場感を持って語ったうえで、弊社にとって大事なことは「疑わしきは出荷せず」なのだ、ということを強調します。さらに、もしそのまま売って不良品が出なければ結果オーライだったのか、ということにも触れておく必要があります。「たとえ不良品が出ようと出なかろうと、『疑わしきは出荷せず』を守ることこそが、会社の経営理念(品質第一)に沿う」と。こういった具体的な事例と価値判断基準を明確に指し示すキーワード(「疑わしきは出荷せず」)をセットにし強調する流れで、経営理念実現への道筋を語るわけです。そうすることで理念が社員一人ひとりに、具体的に伝わり、リアリティを感じてもらうことができます。