CASE.2 カゴメ 働き方を選択できる シニアの力を組織の成長に変える 3つの働き方
国内の上場食品会社としては
いち早く定年退職者の再雇用制度を導入したカゴメ。
同社はこのほど、2001年の制度導入以来2度目となる大きな制度改革を行い、
2012年度から新制度をスタートさせた。
同社はいかにして再雇用者を戦力化しているのか。
これまでの再雇用制度の変遷と、新制度の内容について話を聞いた。
シニアを活かすトップの強い思い
2001年、上場している食品企業としては初めて60歳以降63歳までの再雇用延長制度を導入したカゴメ。その後、2006年には再雇用の上限を65歳に引き上げ、再雇用者の勤務形態をパートタイムから一般社員と同様のフルタイムへと改めた。同社が早くから高年齢者雇用に積極的に取り組んできた背景には、同社内で終身雇用の考え方が定着していたことに加えて、年金制度を巡るマクロ環境の変化がある。
2000年の年金制度改正で、老齢厚生年金の報酬比例部分を2025 年までに段階的に60歳から65歳に引き上げることが決定された。こうした中で、60歳以降の雇用確保と、ベテラン社員の知識や技能の伝承という両面から、高年齢者雇用の制度確立につながったという。同社の経営企画本部人事総務部長 執行役員 有沢正人氏は語る。
「人は60歳になったからといって急に能力が落ちるわけではありません。経験を積んだベテラン社員の知識や技能は、会社にとっての財産です。ベテラン社員の知見を若い世代に受け継いでもらいたいという会社の思いがありました」(有沢氏、以下同)しかし、ベテラン社員の技能をいかに若手に継承していくかは、どの企業も等しく抱えている問題だ。なぜ、カゴメだけがいち早く再雇用制度の確立に踏み込めたのか。「理由の1つには、企業規模が約1500名で社員の年齢構成の変化の予測が立てやすく、ちょうどいい大きさだったということがあります。一人ひとりに目が行き届きやすく、制度を改定することで人件費がどのくらい高騰するのかという見込みが立てやすかった。そしてそれ以上に重要な理由は、『ベテランの能力を活かして組織の活力としたい』というトップの強い思いがあったということ。ですから、制度のスキームは人事が行いましたが、推進はトップダウンで進みました」
高齢者の雇用確保だけを目的とした守りの制度ではなく、組織の成長のためにベテラン社員の力を活かすという攻めの制度なのだ。2012年度からは、フルタイム、パートタイム、特殊技能を有する人のマーケットバリューに応じて個別に処遇を設定する新制度がスタート。“市場価値型”の3つの働き方を設定した。他社に先駆けてベテラン社員の力を会社の発展に活かす同社。社員のニーズに応えながら再雇用制度について試行錯誤を繰り返してきたという。以降でその変遷を見ていく(図表1)。
●2001年:パートタイムで再雇用開始
2001年に導入された再雇用制度では、60歳の定年後の再雇用を希望する者を対象に、会社が認めた者が再雇用となった(基本的に希望者は全員採用となる)。当時の制度骨子は次の通り。
・ 年金がカットされないように労働時間は一般社員の4分の3以下のパートタイム勤務で、残業はなし(月換算で月収約14万円)
・ 年金と合わせて年収330万円
・ 1年契約で最長63歳まで
ところが実際、この制度を運用してみたところ、当初の狙い通りにはならなかった。というのも、同社の工場では24時間交代制で生産が続けられているが、パートタイム勤務で残業もなしという再雇用者に対して、現場からは率直に「働いてもらいにくい」という声が上がった。また、再雇用者自身からも「フルタイムという選択肢があってもいいのではないか」という声が上がったという。