Opinion 2 ”残ってもらいたい人”の育ち方 キャリアの連続性こそ 雇用継続される人材教育のカギ
4月から施行される改正高年齢者雇用安定法によって、
企業には事実上、希望者全員を、段階的に65歳まで雇用することが求められる。
今後、高年齢者雇用を着実に実施するため、企業はどうすべきか。
敬愛大学 高木朋代准教授は、これまで以上に
人材資源管理について長期的な視点を持つべきだと指摘する。
法改正後も就業希望者が急増することはない
2013 年4月からの高年齢者雇用安定法の改正により、年金受給年齢の引き上げに合わせて、希望者全員を雇用することが義務づけられる。これにより就業希望者が急激に増え、企業にとって大きな負担となる可能性が指摘されている。しかし、私自身はそうした状況は起きないと考えている。その理由を、順を追って説明したい。
同法の2006 年の改正時に、すでに企業は「1.当該定年の引き上げ」「2.継続雇用制度の導入」「3.当該定年の定めの廃止」のいずれかを講じ、段階的に65歳までの雇用確保措置を義務づけられていた。そのうち、継続雇用制度を導入した企業の42.8%が希望者全員を対象に、残り57.2%の企業は基準を定めて雇用継続者を選定している(2012 年厚生労働省「高年齢者の雇用状況」)。しかし、その選定基準も「働く意思・意欲がある」「健康上支障がない」など、希望者のほとんどが容易に満たせるものである場合が多い。このことは、高年齢者にとって、希望すれば定年後も雇用を継続してもらえる環境がすでにある程度整っていることを意味する。にもかかわらず現在、希望者が増え、企業が困っているという話はあまり聞こえてこない。
では、定年後も働きたいと考える高年齢者そのものが少ないのかといえば、そうではない。むしろ逆だ。60歳以降も働き続けたい人の割合はいずれの調査でも8割を超え、諸外国に比べても圧倒的に多い。たとえば前改正法施行後に行った労働政策研究・研修機構の「60歳以降の継続雇用と職業生活に関する調査」(2007年)では、無回答を除く88.5%の人が60歳以降の就業を希望している。その一方で、就業希望を企業に表明した人は22.2%しかなく、69.7%がまだ思案中という結果が出た。なぜ、働きたいと考える8割全員がすぐに手を挙げないのか――そこには従業員による「自己選別」のプロセスが働いている。
企業の評価尺度を学び、自らの人材価値を知る
人が定年後も働きたいとする理由はさまざまだ。よく取り上げられるのは経済的な理由だが、むしろ日本人の就業意欲の高さは、仕事のやりがい、社会とのつながりを感じていたいという“日本人的な”理由が大きい。その場合、定年後に雇用延長をすると「いくらもらえるか」ではなく、「どんな働き方ができるか」に関心が寄せられる。そこでやりがいのある職務に就いたり、尊厳のある働き方ができないと判断した場合は自ら引退を選ぶこととなる。