Opinion 1 マインドセットは変えられる 舞台づくりと適切な評価で シニアの意欲を刺激する
高年齢者雇用安定法の改正により法律で雇用が維持されることに安住し、
自己を高める意欲を失うシニアたち。企業からは、彼らへの対応を懸念する声が聞こえてくる。
だが問題はシニアの心の持ちようだけではない。
彼らの意欲をそぐ原因は企業の体質にもあった。
シニアが積み上げてきた能力を企業の力へと転化させるには――。
これまで、シニアのマインドセットやシニア雇用の実態について、
100名以上のインタビュー経験を持つNTTデータ経営研究所の加藤真由美氏に聞いた。
働きぶりを反映した処遇でやる気を引き出す
高度経済成長期、退職後の人生は10 ~ 15 年程度だった。しかし、現在の男性の平均寿命は79.44歳、女性は85.90歳※1。60歳で定年を迎えれば未就労期間は20 ~ 25 年に及ぶ。さらに、2050年の男性の平均寿命は84.46歳、女性は91.38歳※2と予測され、60歳定年なら未就労期間は25 ~30年以上にもなる。
高年齢者雇用安定法の改正により2013年4月からは、定年後も、企業は原則的に希望者全員を再雇用しなければならない。「働けるうちはいつまでも働きたい」と考えるシニアは約40%にのぼり※3、再雇用を望むシニアは今後も増え続けることが予想される。だが、そこには大きな問題が横たわる。再雇用されるシニアが、必ずしもやる気や能力に溢れた人材ばかりではないということだ。
定年退職後の働き方の選択に関する調査結果によると、退職後に働く時の共通意識として、5つの因子が潜んでいるという(図表)。①、②は言葉通りだが、③の「取引」とは、再雇用により働く条件を低下させた会社側と、自分の働き方のバランスをとる意識である。また、④の「気遣いと気詰まり」は、再雇用されたものの安定した雇用継続を希望するあまり、周囲にやや過剰に気遣い、保守的な姿勢が現れること。さらに⑤の「合理性の追求」は、「給与や労働条件が低下しても仕事は頑張らなければいけない」という労働者としての美意識が薄れ、働く条件・対価と、自分が上げるべき成果の均衡を追求した姿勢だ。
加えて、自分の健康・生活と仕事とのバランスをとり、「無理をしたくない」という気持ちがより強くなる。こうした結果からも、再雇用者のモチベーションを維持させるのは容易ではないことがわかる。さらに、企業の側にも問題がある。60歳以上の同一賃金、一律処遇だ。再雇用者は定年前のような昇進や昇給制度から離れ、一度決まった処遇内容が継続されるケースが多い。だが、「体力・意欲・知識・技術」は、歳を重ねれば重ねるほど個人差が大きくなる。その差を無視し、待遇を一律化すれば、能力・やる気があるシニアのモチベーションをも下げてしまう。60歳以上にも、働きぶりをしっかりと反映した給与基準を適用すべきだと私は考えている。
“普通の人”が活躍できる舞台づくり
いわゆる“2・6・2”の法則からいえば、上位2割の人は年齢に関係なく、自分を生かす舞台を自らつくることができる。しかし、平均的な6割の人を生かすには、活躍できる舞台を与え、出番を増やしてあげることが必要だ。これは人事・人材開発部門の役割である。