効率よく聞きたいことを話してもらうために 人事に役立つ“リサーチ力”
人事が真に戦略的人事となるためには、現場の実態を把握し
戦略と現場が乖離しないようにブリッジをかけなくてはならない。
そこで現場の実態を知るうえで、必要になるのが、「リサーチ力」である。
相手から聞きたいことを聞き出し、本音を語ってもらえる方法を、具体的に紹介する。
右手に熱意、左手にリサーチ力
戦略的人的資源管理(SHRM)という概念がある。人事活動を戦略的に実行していく必要性を表現した概念であるが、経営戦略を人事活動に落とし込む時には注意しなければならない。戦略的人事といっても、それが現場の実態と乖離していては、せっかくの活動も機能せず、それどころか現場から反発を受けかねない。実際、人事部の施策は従業員の評価や働き方に直接的に関係するため、現場の感覚との乖離は深刻な問題を引き起こす。
たとえば、経営トップの掲げた目標を遂行したか否かを基準にパフォーマンスを評価する方針へと評価制度を変更しようとした企業があった。他方で、その企業の現場においては、実は、これまで個人の自由な発想を重んじたからこそ、優秀な人材が集結していたという事実があった。ここでは、会社の方針と現場の事情に、深刻な乖離がある。その乖離は、これまでイノベーションを支えてきた人材の離職という最悪の結果をもたらすかもしれない。
このような事態を避けるためにも、現場の実態を適切に把握することが人事部には求められる。だが、他社の事例や諸外国の事例を読んでも現場の実態は把握できない。現場の従業員の声に耳を傾ける必要がある。従業員から実態を聞けば、戦略と実態を接合する人事活動の方針を検討しやすい。
しかし、熱意を持って現場に話を聞きに行くことは意義深い一方で、短時間の聞き取りで、濃密な情報を得ることは簡単ではない。
闇雲に情報収集すると、ほしい情報を得ることができず、時間を無駄にしてしまう。短時間でも情報収集を効率的・効果的に行うスキルが身につけば、便利ではないだろうか。
本稿では、そのようなスキルを「リサーチ力」と呼ぶ。現場に出向く「熱意」に加えて、「リサーチ力」があれば、現場の実態を把握でき、現場に沿った戦略的人事の実現にぐっと近づく。
本稿では、リサーチ力の中でも、特に、人から直接話を聞く情報収集スキル(インタビュー)に焦点化する。以下、リサーチ力を、計画スキルと実施スキルの2つに分解して、そのエッセンシャルなコツを説明していく。
計画スキル:カギを握るのは準備
情報収集の際、収集計画をきちんと立てる人はそれほど多くない。「計画なんて立てる時間がない」というのが本音だろう。私自身もそのような気持ちにかられることがある。だが、時間のない時ほど、効率的な情報収集が求められるため、綿密な計画が必要である。そこでとりあえず次の4点を意識することを勧める。
【 計画スキル1】
何を知りたいかをはっきりさせる
元来、知りたいことがなければ情報収集の意義はない。であれば、何を知りたいのか設定されているのが当然だが、実際には、何となく情報を収集し始めるケースが存在する。
知りたいことをはっきりさせるためのポイントは、疑問形にすること。たとえば「F1層(20歳から34歳の女性)にとって魅力的なホテルの条件は何か?」というふうに疑問形にすれば、最終的な回答が想定しやすい。
その際、回答イメージが湧くほど具体的な問いを考えるとよい。知りたいことが抽象的過ぎると、意味のある回答が得られない。回答イメージが湧く問いにするために、想定回答を持っておくと便利である。先ほどの例に対応すると、「部屋のアメニティが自由に選べる」という回答が想定できる。