人材教育最前線 人材開発のミッションは 仕事で人が育つ仕組みづくり
コンピュータ制御が進む自動車業界
では、ソフトウェアに対する需要が高
まっている。自動車部品メーカー大
手のデンソーでも、こうした状況を
受け、ソフトウェアの開発体制を刷新
するとともに、人材の育成にも一層
力を入れている。開発エンジニアの
教育を企画・設計する福田淳一氏は、
「教育では、人は育てられない。教
育に求められるのは、“主体的に学び、
成長しようという行動を引き出すキッ
カケをつくること”だ」と語る。自
身もエンジニアでありながら、15年
の長きにわたってソフト開発の教育を
担当してきた福田氏に、エンジニア
育成への思いについて伺った。
エンジニアと人材開発二足のわらじで15年
デンソーでソフトウェアエンジニアの人材開発を担当するのは、電子プラットフォーム(PF)開発部ソフトウェア業革室技術2課長の福田淳一氏だ。
同社がソフトウェアエンジニアの育成を始めたのは、1996年のこと。近年、自動車は、コンピュータ制御が進み、ソフトウェアの需要が拡大するとともに求められる付加価値も高まっている。しかし、デンソーでは、それまで主力製品がハードウェアだったこともあり、ソフトウェアエンジニアの育成の仕組みが、なかったのだ。
そこで、新しいニーズに対応すべくスタートしたソフト開発の構造改革の一環として、ソフトウェアエンジニアの育成・強化を開始した。
当時、入社4年目の福田氏も、上司がこの取り組みの責任者だったことから、構造改革のメンバーとして参加し、人材開発にも取り組むことになった。
以来、15年間、ソフト開発と人材開発という“二足のわらじ”を履き続けている。
エンジニアとして入社しながら、人材開発という本来外の業務も担当しなければならなくなったことについて福田氏は、次のように語る。「ソフト開発と人材開発の二足のわらじを履くことには、特に抵抗はありませんでした。それどころか、やればやるほど人を育てることの難しさ、面白さを感じ、できれば、この仕事に専念したいと考えることがあるほどです。人材開発の仕事に魅了されているのかもしれませんね」
“失敗”を経験する研修で気づきを引き出す
人づくりという生身の人間を相手にすることの楽しさと難しさに魅力を感じる福田氏が考える理想の人材像は、「自分で考え、主体的に取り組める人」だという。しかし、福田氏は、「教育で人を育てることはできない」とも指摘する。「人は経験を通じて育つものです。いくら教育をしたところで、本人に気づきが生まれなければ、人は成長できない……。だからこそ教育を“学ぶきっかけづくりの場”と位置づけ、主体的な学びを引き出すための独自の施策が必要になるのです」
その1つが、「“失敗”を経験させる教育研修」だ。あらかじめ受講者が失敗するような仕掛けを盛り込んだケーススタディを行い、実際に失敗した受講者が、“なぜ失敗したか”、“どうすれば失敗を避けられたか”といったことを考えるというものだ。「私たちより上の世代は、仕事の中でたくさん失敗し、叱られることで、いろいろなことを学んできました。しかし、最近は、組織も仕事も細分化され、失敗しづらい環境がつくられています。そのため若い人たちは、失敗する機会が減っています。ミスを減らすための取り組みが、結果として、若手にとっては自分で考え、工夫する習慣が身につきづらい環境になってしまっているんです。ならば、教育研修で失敗を経験させることで、考えたり気づいたりするきっかけにしようと考えたのです」
研修の運営は、デンソーグループの専門会社に任せているが、プログラムは、福田氏自身が企画・設計している。気づいてもらうために、プログラムのどこにどんな失敗を盛り込むかといったことを細かく作り込んでいくという。「こちらの目論見通りに、受講者が失敗し、そこで気づきを得た時は、開発者冥利に尽きますね」と語る様子は、まさに、エンジニアそのものだ。