利他の心が漂う理念が “大切にしたい会社”をつくる
大学や大学院で教鞭を執る傍ら、経営学者として
6500社もの企業を訪問してきた坂本光司教授。
坂本氏曰く、優秀な企業の多くが、社員や公共への
“利他の精神溢れるウェイ”を持ち、それが事業戦略と深く結びついているという。
そうした、優良企業の共通点とは何か、坂本氏に聞いた。
バブル崩壊を契機に増加し始めたウェイ
私の調査によると、現在ウェイ(WAY)や経営理念といったビジョンを掲げている企業は、全体の約70~80%。ほとんどの企業が、何らかの形で企業のビジョンを社内外に宣言しており、その数は増加傾向にある。
企業理念やウェイが増え始めた社会的背景の1つとして、バブル崩壊がある。それまでの大多数の企業が、経済優先、成長優先、拡大優先の経営戦略をとっていた。そして、多くの企業が、その戦略通り、世界で通用する高い技術を持った会社へと成長を遂げていったのだ。
経済的満足を満たし、新たな目標を見失った企業を待っていたのが、1980年代のバブルの崩壊だった。戦略さえあれば他社や世界と勝負ができた時代は終わりを告げ、これまでと同じ方法では結果を出すことができない時代が到来。そして、経済優先の代償であるかの如く、企業では良識や倫理観が問われるような不祥事が相次ぎ、社会問題となった。
こうした状況下で提唱されたのが、物的拡大を偏重する経営からの脱却。そして多くの企業が、我が社は何のためにこの世に生を受けたのかという企業の存在意義・目的を改めて問い直すという動きが見られるようになっていったのだった。
そこで多くの企業が行ったのが、会社の原点である企業理念、社是やウェイを見直す・つくるということだった。元々それを掲げていた企業は、企業が存在する目的をもう一度見直し、掲げていなかった企業は新たにつくるという動きが見られるようになった。
本来、企業経営の目的は、経営戦略を立てる以前に必要となるものだ。「我が社は何を通じて世のため人のためになるのか」そして「我が社は何のためにこの世に生を受けたのか」といった企業の社会的使命、存在意義を社内外に高らかに宣言したものこそが経営理念だからだ。
だからこそ、私は企業が存在する目的がない、または明確でないということは、方向舵が定まらない飛行機に乗っているのと同じだと考えている。どこに向かっているのかがわからなければ、社員たちは何をどうすれば良いのかもわからなくなってしまう。
2008年のリーマンショック以降、さらに理念の重要性は高まりを見せ、多くの企業がこれまでの戦略経営から理念経営へと移行している。企業の社会的責任が問われるようになった今、社会全体が企業に対して理念経営を求めるという意味で、経営理念やウェイを掲げる企業が増えるのは、自然な流れといえるだろう。
優れた企業には利他の心が漂う理念がある
私は中小企業経営論を専門とし、週の1~2日は大学の研究室を飛び出して多数の企業を訪問している。これまでに訪問した企業は、6500社以上。北は北海道から南は沖縄まで、全国各地の企業の仕事の様子はもちろんのこと、朝礼に至るまでくまなく会社の様子を見学させていただいている。
著書『日本でいちばん大切にしたい会社』で紹介している企業をはじめ、私が研究のために訪れてきた企業には一定の基準がある。それは、