ウェイが実践される組織には 具体的な仕組みがある
言葉としてのウェイは、とかく「美辞麗句」や「お題目」になりがちである。
ウェイでいう価値観を社内のすみずみに満たし、
現場における具体的な行動指針としていくには、どうすればいいのだろうか。
ウェイを「重要な経営資源」と位置づけるHRインスティテュート代表
野口 昭氏に、ウェイが実践される組織の特徴と、人事の役割を聞いた。
非常時ほどウェイが試される
3月11日に発生した「東日本大震災」で、私は多くの読者の皆さんと同様、帰宅困難者となった。クライアントのオフィスのある銀座から横浜の自宅まで、延々30㎞の道のりを歩き続けることになったのである。以前から「ひとたび大震災が起これば、道路は大渋滞し、歩道は徒歩で帰宅する人々で溢れかえる」といわれていたが、まさか本当に現実になるとは思わなかった。ただ、それはいろいろな意味で発見の多い旅でもあった。
印象的だったのは、大勢の帰宅困難者を温かく迎えてくれた店舗や病院である。トヨタの販売店は営業時間をとうに過ぎてもショールームを開けており、トイレや休憩場所を提供していた。また、あるコンビニエンスストアでは、店舗前に机を出して携帯電話の充電器を各種用意し、無料で利用させてくれた。川崎市内の総合病院ではロビーを開放していた。トイレや電話の利用はもちろん、温かなスープやお茶、さらにはパンまで無料配布。体調の悪い利用者がいれば、看護師が対応してくれるという至れり尽くせりぶりである。そのホスピタリティ溢れる姿勢には感動を覚えずにいられなかった。
彼らは皆、トップの指示で動いているようには見えなかった。あくまで現場の判断で、人々に手を差し伸べているように、私には思えた。
一方、道中見つけた某自転車販売チェーン店は、2店舗とも20時で販売を打ち切っていた。あの夜、自転車が使えたら、どれだけの人が助かったことか。改めて、こういう時こそ組織が日頃、人間を尊重しているかどうかが表れるように感じた。
いい換えればそれは、非常時ほどウェイ――その企業らしさ――が現場で活きているかどうかが試されるということでもある。
私がウェイと呼んでいるのは、強い組織の現場の基盤になるミッションやビジョンであり、大切にしている価値観だ。トップと現場を緊密に結びつけるものでもある。それらしい文言を額に入れ、ウェイとして掲げている企業は少なくないが、もちろんそれだけではウェイは機能しない。現場で意識され、実践され、仕組みとして動いて初めてウェイになる。つまり、「その企業らしい人や組織の動き方、動かし方」こそがウェイといえるであろう(図表1)。
それでは、具体的に“現場で活きるウェイ”とは、どんなウェイなのだろうか。
守ること進化させること
現場で活きるウェイの第一条件は、「揺るぎない企業遺伝子となっていること」だ。