第9回 ホスピタリティ溢れるキャストを育てる 東京ディズニーリゾートの現場の学び 山田裕美氏 オリエンタルランド キャストディベロップメント部 マネージャー 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
東京ディズニーリゾートのホスピタリティ溢れるキャストたち。実はその9割以上が、正社員では
なくアルバイト(準社員)。しかも接客に関するマニュアルはなく、導入時の研修後は、現場での育
成が非常に重要視されています。キャストが育つ秘密を探るべく東京ディズニーシーを訪ねました。
「これからジャングル探検に出発します!」
東京ディズニーランドのジャングルクルーズでは、船長役のキャストが、こんなわくわくする誘い文句で乗客を冒険の世界へと連れ出してくれます。雨の日に、掃除係のキャストがほうきでミッキーの絵を描いてくれた、といった心温まるエピソードもよく耳にします。
東京ディズニーランド、東京ディズニーシーを訪れる人は年間約2600万人。そのうちの9割以上がリピーターです。東京ディズニーリゾートを、何度も訪れたくなる特別な場所にしているのは、こうしたキャストたちのおもてなしの心、ホスピタリティがあってのこと。
この東京ディズニーリゾートで働くキャスト(従業員)は約2万人。そのうち約90%がアルバイト(準社員)です。キャストの育成は、全社・各部門・現場が協力して行っていますが、現場でのキャストの育成が非常に重要視されています。
ホスピタリティ溢れるキャストはどのように育っているのでしょうか。
キャストデビューまでの流れ
最初に、キャストディベロップメント部マネージャーの山田裕美さんに、準社員のキャスト教育についてお話を伺いました。
まず、キャストになるためには、webおよび電話で応募し、面接を受ける必要があります。面接で職種や勤務時間など、希望の勤務条件と勤務適性を登録。勤務適性の審査を受け、募集している職種に合致すれば、キャスティングセンターから「配役」案内が来ます。
職種はアトラクションやショー、フードサービスや清掃、内勤の一般事務や電話対応まで30職種以上。これら全ての職種に独自の名称がつけられ、どのような仕事であっても働く人は、キャストと呼ばれます。というのも、東京ディズニーリゾートでは、キャストは青空を背景とした巨大なステージで、それぞれのテーマに即して「演じている」のであり、仕事は「ショー」であると考えられているからです。
入社が決まったら、キャストとしてのトレーニングが始まります。初日は全員が必ず受ける「Tips onMagic」という半日ほどの導入研修です。これからディズニーの世界の一員となるため、東京ディズニーリゾートのゴールである「ゲストへのハピネスの提供」の共有と、キャストの役割を認識することを目的としています。VTRやロールプレイなども交え、全キャスト共通の行動基準「SCSE」、Safety(安全)、Courtesy(礼儀)、Show(ショー)、Efficiency(効率)などのディズニー・フィロソフィー(哲学)や歴史について学びます。