内省型リーダーシップ 優れたリーダーは 内省をしている
環境変化の激しい現在では、社員全員にリーダーシップの発揮が求められ
ています。ところが、どうしたらリーダーシップを身につけることができ
るのか、明確な解がまだ見つかっていないのも事実。そこで本連載では、「自
分を見つめること」=「内省」がリーダーシップを育てるうえで効果的で
ある、という最新の研究結果をもとに、新しい“内省型リーダー”のあり
方を解説していきます。
誰もがリーダーになれる!?
経営者やマネジャーのみならず、今では現場の一社員にとってもリーダーシップの発揮を求められる場面はたくさんあります。現場の一社員であっても、全社的なヴィジョンを共有した上で、時と場に応じた適切な判断や提案によって他者に影響を与えることが求められているのです。
今日、企業の競争環境は、ステークホルダーのニーズが益々多様化し、市場の変化速度もかつてないほど高まっています。これに対応するには、トップだけが強いリーダーシップを発揮し、他の人が指示を待っているスタイルでは間に合いません。多くの組織において、組織の中の隅々に至るまでリーダーシップを分散し、多くのメンバーが主体性を発揮することで多様性や変化に対応しようする取り組み――組織や制度の改訂や新しい研修の導入などが進められています。
実際、それらの取り組みが成功し、主体性を発揮する人が増えるかどうかは、多くの組織にとって経営成果を大きく左右するほど重要なテーマです。しかし、それは同時に、達成が決して容易ではないテーマでもあります。
達成が難しい大きな理由としては2つ挙げることが出来ます。
1つは、多くの人がリーダーシップを発揮しようとすれば「船頭多くして船山に上る」といった状況が生じ、リーダー同士の対立や社内政治の複雑化がかえって経営効率を落としかねないという問題があるためです。
もう1つは、現場にいる普通の人々がリーダーシップを発揮できるようにするための研究の歴史がまだ浅く、効果的なリーダーの育成についての知識が不足しているためです。このことは、リーダーシップ研究の初期段階で長い間、リーダーシップは特別な資質やカリスマ性のある人だけのものだと考えられてきたことにも原因があります。
筆者らは、リーダーシップと組織開発の分野における研究者・コンサルタントとして、これまで多くの企業の現場に入り、多くの方々から話を聞き、ともにリーダーシップを高めるためにさまざまな取り組みを行ってきました。その中で、はじめは経験的に、そして現在では実証的なデータを伴ってはっきりとわかってきたことがあります。
それは、どうしたらリーダーシップを高めることができるのかということです。答えは、実にシンプルなことで「自分自身を深く見つめ、変えることができる人は、そうできない人に比べてより有効なリーダーシップを発揮することができる」という事実なのです。そして、そのようなリーダーシップが発揮されると、対立が対話によって解決され、より創造的な成果が生み出されることが明らかになりつつあります。
自分を深く見つめ自分自身に変化を生み出すことは、「内省」と呼ばれるプロセスです。この内省が、リーダーシップの発揮と組織的な成果におけるカギを握っていたのです。
実は、リーダーシップにおける内省の重要性については、これまでにも多くの先人や研究者達が指摘してきたことではあったのですが、実証的なデータを伴って十分に明らかにされてきたわけではありません。そこで、本連載では、内省によるリーダーシップの向上について、現時点における最新の研究成果を元に、その理論的な側面から実際の場面における応用的な側面にまでわかりやすく紹介していきたいと思います。組織内でいかにリーダーシップを育み、組織力を高めるかについてぜひ参考にして頂けたらと思います。
さて、ここで一旦、筆者の八木と永井の自己紹介をしたいと思います。八木は、現在香川大学ビジネススクールで教鞭をとり、リーダーシップや組織行動、組織開発論を専門としている研究者です。永井は、野村総研にてIDELEA(イデリア)という経営者向けのエグゼクティブ・コーチングと経営コンサルティングを提供している事業責任者です。
内省型リーダーシップ論は、これまで八木が集中的に研究し、現在も実証に取り組んでいる新しい理論モデルです。本連載では、この理論に永井が実践的な視点と、わかりやすい事例を補い、理論と実践の両面からわかりやすい解説をしていきたいと思っています。