今、求められる場とは
対話による組織活性化や、目標設定を行う企業が増えている。
しかし、いざ対話をしようとしても意見が出ない、批判的な意見が出てしまう、といった課題も多い。
その理由は、そもそも対話をする以前に、そのための“場”が整っていないからだ。
世界のさまざまなコミュニティーで、対話のための“場”づくりの活動を行ってきたボブ・スティルガー氏と、
「内省と対話」をキーワードに組織行動を研究する八木陽一郎氏の両氏が、
組織における“場”の現状と課題、そしてどのようにして“場”をつくればいいのかを語る。
“場”を求める声は新たな変化を求める声
八木
近年ビジネスの領域で、ダイアローグやワールドカフェといった、お互いに対等な立場で意見を交わし、対話するための手法に注目が集まっています。
こうした対話のための“場”づくりを求める声が多く聞かれるようになりました。改めて、“場”とは何かということですが、この言葉は日常的なレベルから哲学的なレベルまで実にさまざまなレベルで語られています。
日本では哲学者の西田幾多郎による実在と場や、生命科学者の清水博による生命の原理と場に関する議論が知られています。また、経営学者では、伊丹敬之が情報および心理的相互作用の容れ物として場を定義しています。
多くの議論の共通点は、私たちが存在し、相互作用する時、そこには必ず「場」があるという点です。意識するしないに関わらず、“場”は、私たち自身が存在し相互作用することを可能にしています。そして、現在、対話を重視する多くの人々が場のあり方を重視しているのです。
ではなぜ今、こうした“場”が重視されているのでしょうか?
ボブ
1つの大きな要因は、ビジネスにおいて目に見えた成果が上がらず「何かを変革したい」という声が上がっていることだと思います。逆にいうと、明白な成果が得られていたり、自分たちが何をしているかが明確だったりする時には、対話や“場”は必要ないのかもしれません。
多くの人が、新しい何かが必要だと気づき始めている。その証明として、ワールドカフェ*1やダイアローグを求める動きがあるのではないでしょうか。
八木
そうですね。これまで企業経営者の多くが、いかに効率を上げるかということに注力してきました。それによって事業が成功してきた面もあるのですが、同時にいくつかのことが犠牲になってきました。
それは、創造性、仕事の喜び、自己の尊厳(セルフエスティーム)といったことです。その結果として、多くのビジネスパーソンが、焦りやストレスを抱えていたり、自分というものがそこにない、仕事から疎外されていると感じているように思えます。
ボブ
創造性に関していえば、組織のあり方が、マネジメント(管理)をしてメンバーをコントロールすることから、リーダーシップによって皆に創造性を発揮してもらうことへと移行しつつあることも関係しているでしょう。
通常、ビジネスの場で上手くいかないことがあると、それをコントロールして改善しようと考えがちです。これはマネジメントのメンタリティーですね。リーダーシップの観点からいうと、上手くいかない時はちょっと立ち止まって、私たちは誰で、何をしたいのか、それは誰のためなのかを考え、自分たちで創造性を発揮することが求められます。
八木
確かに、これまではコントロールによって効率や生産性を追求してきました。ですが、実はコントロールだと十分に人を活かすことができません。あるいはコントロールでは「私たちは何者であるか」という問いには十分に答えられないということを皆が感じつつあります。
コントロールを強めてマネジメントをするということは、“あなたでなくてはできない”仕事をなくし、代理がきくようにすることでもあります。しかしリーダーシップの観点から、より重視されるのは、その人がその人であるからこそできる仕事をすること。メンバーの創造性を高めることに意味があるのです。
コントロールからリーダーシップを発揮したマネジメントへと、方向転換が起きつつあるということの表れが、現在“場”づくりに関心が集まっている一因と考えられますね。
良い“場”の条件は敬意、好奇心、友情
八木
では、“良い場”をつくるためには何が必要だとお考えですか?