JMAM通信教育優秀企業賞 受賞企業事例報告 富士通 幹部社員の育成から始まる現場ベースの組織改革
日本能率協会では、産業界に有効な能力開発のあり方を普及させることを目的に、
1988年「能力開発優秀企業賞」を創設。
第23回となる今回は、あいおいニッセイ同和損害保険が本賞を、エイチシーエル・ジャパン、
富士通が特別賞を受賞した。そこで、3号にわたり、その取り組みを紹介する。
富士通では、現場(フィールド)から企業革新を担う人材を育成するため、
管理職以上の社員に対して1年間の育成プログラムを実施している。
現場で改革を推進するフィールド・イノベータ
現在富士通には、「フィールド・イノベータ(以下FIer)」という肩書を持った社員が約400名働いている。その平均年齢は47歳前後。同社で2007年より行われている「フィールド・イノベータ育成プログラム」を受講した、フィールド・イノベーションを専任で行う社員である。
フィールド・イノベーションとは、仕事が実際に行われている現場、つまり“フィールド”において、事実を正しく捉えて課題を見出し、人々の知恵を引き出して改善を重ねて変革を起こすこと(図表)。これまで顧客に対して多様なICT(情報通信テクノロジー)ソリューションを提供してきた富士通が、単にシステムによってのみではなく、より顧客の現場視点でのビジネスソリューションを提供するために、2007年より開始した取り組みである。
この考えに基づき、FIerは顧客先の現場または自社内の現場で、改善活動を推し進める。フィールド・イノベーションのコンセプトづくりから携わってきた山本広志氏は、その背景を次のように語る。「これまで、どちらかというと人やプロセスについてはお客様の領域で、それに必要なシステムを当社から提供するという形でした。しかし、ビジネスをより良くするには、お客様のプロセスや人の問題にまで踏み込まなくてはならないと実感することが多々あったんです」(山本氏)
たとえばある企業のコールセンターから、システムを導入したのにも関わらず、思ったような効果が上がらないという相談があった。そこで、オペレータの通話記録や、人材配置などを徹底的に調査・分析したところ、システム以前にオペレータの教育や育成担当の設置といった課題があることが判明。その解決に向けて約2年間取り組んだ結果、業務に対する評価が大幅に向上したのだ。「人やプロセスの問題を飛び越してシステムだけを変えても、大きな改善は見られない。課題解決の知恵は現場にあるはずですが、現場の従業員は課題に対する意識はあっても、日々の忙しさや、さまざまな理由で、実際にはなかなか動けないのが現実です。そうした時に、当社がシステムや人、プロセスにまつわる事実を“見える化”して、現場の知恵を引き出し、お客様と一緒になって現場を改善していくというのが、フィールド・イノベーションの考え方です」(山本氏)