リーダーシップは 誰のものか
前号の第2回では、経営学とは「測定と管理」の学問
であり、それを人材育成に応用することは、人材のパ
フォーマンスを測り成長度合を管理するということであ
ること、しかしそれは、人間性の管理とは全く異なるこ
とを述べた。今回は、リーダーとリーダーシップについ
て考える。
「リーダーシップ」から忘れられている側面
「自分の考えたとおりに生きなければならない。そうでないと、自分が生きたとおりに考えてしまう」Paul Bourget(小説家/1852~1935年)
最近、『リーダーシップでいちばん大切なこと』(JMAM/刊)という書籍を上梓しました。この本では、リーダーシップとは何であり、それは誰にとって必要なのか、またその学習方法について、6名の若きリーダーたちの姿を取り上げつつ紹介しています。そこで今回はこの誌面でも、リーダーシップについてお話したいと思います。
リーダーシップは、経営学において最も重要なテーマの1つであると同時に、最も難しいテーマでもあります。一般に、リーダーシップとは「価値観を示し、人を巻き込む力」のこと。またリーダーとは、そうした力を持った人のことといわれます。しかし、膨大な量に及ぶリーダーシップに関する研究は、主に「人を巻き込む力」のほうばかりに注力してきたように思います。この「人を巻き込む力」は、マーケティング(=自分の思う方向に他者を動かす活動)に近い話ですので、実利を求める人々の関心を誘ったのでしょう。
そうした流れの中で、僕たちは「自分の価値観を示す」という、人間にしかできず、そしておそらくは人間にとって最も重要なテーマを忘れてきたのではないでしょうか。
画家フィンセント・ファン・ゴッホは、美術史における偉大なリーダーといってよいでしょう。ゴッホの絵は現代でこそ非常に高く評価されていますが、生前にはたった1枚しか売れなかった。生前には、フォロワーなど全くいなかったことになります。そんな彼に、死後、多くのフォロワーが群がることになった事実は、僕たちに「リーダーシップは、リーダーの死によっては失われない」という重要な視点を与えてくれます。
吉田松陰や坂本龍馬の例を挙げるまでもなく、リーダーの価値観が、何らかのアウトプット(作品や物語)として残される時、そのリーダーシップはリーダーの死後も、時間と空間を超越して発揮されます。
結局のところ、ある人物が偉大なリーダーかどうかは、歴史のチャレンジを受けてみないとわからないということです。つまり、リーダーの価値は、現時点で多くのフォロワーがいるか、いないかということでは決められないということです。しかし、過去のリーダーシップ研究の多くは、すでに地位や名声を獲得している(フォロワーの多い)人物に「共通する何か」を探ってきました。