個人の成長と組織の改善は 対話とPDCALから
振り返りができないのは、
振り返るための材料=事実がないからではないか。
事実を記録し、見える化すれば、思いがけないところまで
人は成長し組織は変わる可能性がある――
そんな希望を、福井キヤノン事務機の変革の足跡に見る。
「事実」と「対話」がPDCALには不可欠
福井キヤノン事務機は、コピーやファックスなどのオフィス用事務機器販売からスタートした販売・保守会社である。インターネットやパソコンが本格的にオフィスに浸透していった1990年代後半には、業務転換の必要性を強く認識していた。当時の状況について岩瀬裕之専務取締役は次のように語る。「事務機器を売って保守点検などのサービスで稼ぐ。これが従来のビジネスモデルでした。しかしIT化が本格化し、お客様の業務課題を発見し解決するという、ソリューションの提供が求められるようになったのです。簡単にいえば『これ直して』ではなく、『これどうしたらいい?』と相談される存在になること。それが当時の我が社の課題でした」
そのため1998年には、玉木洋社長のトップダウンで経営改革がスタートした。そこで意識されたのが「PDCAL」の徹底だったという。
PDCALとはPlan(計画)→Do(実行)→Check(評価)→Action(改善)→Learn(学習)のサイクルで業務を回すという考え方。一般にはAまでを考えるが、同社では「Learn」を追加している(図表1)。「PDCAは、同じことを繰り返すのではなく、クオリティアップしていくものでなくてはなりません。改善を繰り返し、改善限界が来ればやり方を変えるなどして“革新”していかなくては」(岩瀬氏)――そのためには、業務を通じて個人が学んだことを組織学習に結びつけていく学習フェーズが不可欠なのだ。
PDCALをうまく回すためのポイントは、「目的の共有」と「事実の見える化」、そして「対話」にある。経営理念について皆で話し合い、目的を腹に落とす機会を設け(同社ではチームで話す「Yume-Talk」という活動を行う)、さまざまなことを数値にして比較検討を可能にする。改善策の検討や実行状況の評価などもその数値をベースに考えていく。
しかしどんなに良い改善案でも、数値にして論理的に説明しただけでは人は動かない。大切なのは行動してもらうことだ。そのために必要なのが「対話」であり、対話を通じて、評価(Check)・改善(Action)・学習(Learn)をしっかり行うことがPDCALの要であり、「省察」(内省)であるというのが玉木氏の論である。
PDCALが機能する前提には、企業理念、戦略と部門、チーム、そして個人の目標が連鎖していること(目標連鎖)が不可欠だと玉木氏はいう。全社的な目標連鎖を実現する際にも重要なのが「対話」だ。対話は個人の意識と行動を組織の成果に結びつけるものであり、この仕組みを同社では「目標連鎖の仕組み」と定義している(図表2)。
営業チームが激変したPDCALの徹底
では「目標連鎖の仕組み」をベースに、具体的にはどのようにPDCALが回ってきたのかを見ていこう。最初に営業部門の取り組みを紹介する。
営業部門の改革は玉木氏が自ら陣頭指揮を執り、2010年1月から開始された。まず、4名からなる小さなチームをテストケースとして指名。このチームはリーマンショック以来の市場低迷の中で営業目標を達成できていないチームであり、改革は「このチームが成功するためにはどうすればよいのか」を4名で話し合うところからスタートした。
話し合いを元に業務改善目標を設定し、業務改善に必要な活動を明確化。その活動の内容を整理し、お客様とのやり取りの仕組みを改善する「顧客管理担当」、営業活動の管理を改善する「プロセス管理担当」など役割を設け、4名で分担した。さらに各人は自分の担当分野について必要な行動を考え、日々の営業活動の改善行動と並行して実施できるようプランニングする。
玉木氏は営業部門のPDCALの核として「目標連鎖シート」を導入した。このシートは各人の行動を記録し、振り返りを行い、次の行動目標を設定するために使用する。振り返りは月に1回、1名につき1時間の個人面談の形で実施された。
目標連鎖シートには「革新(成長)テーマ」「6カ月後の目標」「当月の実践項目」などを記入する。実践した行動は、次の6つの点で考えて記入し、面談前に玉木氏に提出する。
①創意工夫したこと