組織風土というOSの バージョンを上げる PDCA
きちんとPlanにコミットする人材、計画をDo(実践)する人材、
自らを振り返る(Check)人材、
改善のために行動する(Action)人材……
こうした人材が育つ組織とは、どういった組織なのか。
それは、間違いなく、良好な組織風土を持つ組織だ。
そして、組織風土を良くするためにも、PDCAは活用することができる。
CS 経営と経営品質に造詣の深い田村均氏がそのポイントを語る。
“何”に対してPDCAを回すのか
あらゆる企業にとって、業績の向上や優れた人材の育成を実現するために何より重視すべきなのは“組織風土のレベル”を上げることではないのか?
私の頭の中に漠然とあったこの思いを確信に変えたのは、高校野球の強豪校何校かを取材した、テレビの特集番組だった。“3年生の引退や新入生の入部で、野球部のメンバーは毎年変わり続けているのに、なぜ優勝候補校の多くが毎年のように甲子園まで勝ち残れるのだろう?”というのが長年の疑問だったので、各校の練習方法をつぶさに観察したのだが、これといった共通点は見出せない。
しかし、どの監督の話にも一致することが一つだけあった。それは「時間厳守」「用具の扱いは丁寧に」「整理整頓」「礼儀正しく」「授業にきちんと出る」など、野球の技術以外の生活全般に関して、とてもうるさくいっているということ。それを聞いて、組織風土の大切さについて改めて考えていたところへ、今度は行く先々の高校で吹奏楽部を大会優勝へと導く名物指導者を取り上げる番組が放映された。するとその先生も、やはり時間を守ることやきちんと挨拶することなど、楽器の演奏とは直接関係ない部分を厳しく指導していたのだ。
野球にせよ吹奏楽にせよ、優勝争いに絡むようなトップクラスになると、技術的にさほど大きな差があるわけではなく、各人の日々の心構えなどがつくり出す“組織風土”の成熟度こそが、プレーに多大な影響をもたらす。そしてこれは、そのまま企業にも当てはめることができる。こうした考えが、私の中で確固たるものになった。
制度や仕組み=アプリ組織風土=OS
それ以来、組織風土のレベルや成熟度を高めることの重要性を、ことあるごとに訴えているのだが、なにぶん組織風土は目に見えるものではないので、その大切さに心から納得していただくのはなかなか難しい。
そこで野球部や吹奏楽部であればトレーニングのメニューや、試合や演奏の際のスキルに相当する部分、すなわち企業内の制度や仕組み、人材育成の個々のカリキュラム、業務プロセスにおける手法など全てを、コンピュータの「アプリケーション」なのだと仮定してみた。
では、それらのアプリケーションを動かすため絶対に欠かせない「OS(オペレーティングシステム)」は何に当たるのか?
それこそが“組織風土”だと思い至ったのだ。すると、たとえば“A社で成功した仕組みをB社でも導入したが、全くうまく機能しない”といったケースの場合、“B社のOSのバージョンが低いから、そのアプリケーションがうまく動かなかった”と捉えることができ、それまで混沌としていた多くのことが一気にスッキリした。
かつての日本企業にとって、“OSのバージョンアップ”は全く必要なかった。高度経済成長で“右肩上がり”が当然だった時代は、いつも需要が供給を上回っていたため、企業は“より速く”“より多く”ということだけに注力していれば着実に業績を上げることができたからだ。皆の口から出てくる言葉は“効率アップ”。経営者や各部門のリーダーたちは“前年比何%”“何期連続達成”と、目に見える数字だけを追いかけていればよかった。