PDCAのプロセスに 巻き込み、体験させてこそ 人の能力は培われる
知る人ぞ知る、「世界の優良企業」がある。産業用電機メーカー、エマソンだ。
家電部品から大型の製造機械まで5事業を手掛ける同社は、
なんと1950年代半ばから約半世紀にわたり、ほぼ連続して増収を続けている。
米国に本社を持つ企業ながら、その人づくりは極めて日本的な一面を持つ。
高業績の裏には、「PDCAサイクルを回す」ことの徹底と、その中での人材育成があった。
「日本的人づくり」が高業績を生み出す
――エマソンは、社員数約13万人という巨大企業でありながら、半世紀近くにわたって連続増収を維持していらっしゃいます。大企業病に陥ることなく、増収増益を続けられるのはなぜでしょうか。まずは貴社の企業風土からお聞かせください。
土屋
よく皆さんに驚かれるのですが、エマソンはある意味で非常に日本的な会社なんです。本社は米国ミズーリ州セントルイスにあります。同じ米国企業でも、西海岸にある自由な雰囲気のIT系企業と、エリートが集まる東海岸の金融系とでは全く文化が違うんですよね。エマソンのある中西部はどうかというと、業績の高い機械メーカーや素材メーカーが本社を置いている。そしてこれらの企業には、1980年代に脚光を浴びた「日本的経営」を導入しているところが多い。当社はまさにそうした会社の典型例かもしれません。正確にいえば、日本的というより「かつての日本企業的」な文化と米国的価値観がミックスされている感じでしょうか。そういう文化を守ってきたからこそ、高業績を維持できたのだと思います。――具体的にはどんなところが「かつての日本企業的」なのですか。
土屋
まず、社員の定着率がいい。人材を長期にわたって育成する。そのために、ジョブローテーションをしっかりと組んだりしています。
それから、トップと社員の距離も近いです。たとえば当社のCEOはデイビッド・ファー(David Farr)といいますが、社員は誰も彼を「Mr.ファー」とは呼びません。日本人の我々も普通にデイブとかデイビッドなどと呼びかける。そういう心やすさ、親しみやすさを持つことを、経営幹部全員が心がけています。
日本企業にもかつてはそんな面があったのでは。社長が社員食堂で社員とランチしたり、工場に行って技能工と話したり、などですね。今はむしろ米国企業の社長のほうが、社員と近い関係かもしれない。――巨大組織になればなるほど、階層が細分化され、トップと社員の距離が開きがちです。
土屋
ですからエマソンではトップが社員に対し、直接、かつ可能な限り率直に、会社の状況を伝えるようにしています。全員に会社の現状を認識してもらい、目標にコミットしてもらうためです。
当社には5つの事業セグメントがあり、国をまたぐ形でそれぞれ数万人の社員を擁しています。しかし、事業部トップたちは直接みんなにメッセージを伝えるべく、常に世界中を駆け巡っていますよ。
この姿勢は日本エマソンにおいても同じです。本社トップ、事業部トップのメッセージを忠実に、そして、できるだけface to faceで社員に届けるよう心がけています。――多くの日本企業が失った「コミュニケーション重視の文化」が生きているということですね。
土屋
そうです。上司と部下の関係についても同様です。最近の日本企業では、隣にいる上司にメールで業務報告をするといったことがよくあるそうですが、かつてはそんなことはなく、もっと一体感があった。当社ではその一体感がいまだに続いているといえます。
というのもエマソンには、「この会社で働く人間は、誰しも十分に訓練を受けた上司のもとで働く権利がある」という経営哲学があるんです。十分に訓練を受けた上司――私は「正しい上司」と呼んでいますが、これはどういう上司かというと、まず、人として当たり前の倫理観を持っている人。それから、部下ときちんとコミュニケーションできる人を指します。
ほったらかしにしていたら部下は絶対近寄ってきません。「オープンドアポリシー」という言葉がありますが、ドアを開けておいたって自分から入ってきたりしない。もっとも緊急事態になれば飛び込んでくるでしょうけど(笑)。その前に上司から出て行って歩み寄らなくては。