ID designer Yoshikoが行く 第71回 痒いところに手を届かせるには “耳”でも仕事をすべし
ビジネスマンが「身だしなみを整える」ためにヘアサロンに行くのに対し、ビジネスウーマンの目的の第一は「気分転換」、続いて「イメージチェンジ」だそうな。特に春は、人生の転機を迎える季節、思い切ったイメチェンにチャレンジする女性が増えるという。悩みやしがらみを髪と一緒に吹っ切って華麗に変身~♪、といえば、思い出すのはやっぱり名作「ローマの休日」。オードリー・ヘップバーン扮する王女様が長い髪をショートにし、ジェラートを舐めながら軽やかにスペイン階段を下るシーンは、女子の変身願望をくすぐる素敵な場面である。ローマで髪をカットすれば私も……、と勘違いした若き日の私は、初めてイタリアを訪れた時、スペイン階段を上り切ったところに本当におしゃれなヘアサロンがあるのを発見して飛び込んだ。マネジャー、カットをする人、シャンプーをする人、セットをする人……、たくさんのプロフェッショナルが入れ替わり立ち替わり現れ、そのたびにチップを渡さないと進まないシステムにもドギマギしたが、もっと驚いたのが、「キミの髪は、なーんてゴージャスなんだ!」と手放しでほめまくられたこと。なにしろ日本のヘアサロンでは、「くせッ毛ですね」「多過ぎますね」「膨らみ過ぎですね」と常に弱みを指摘されてヘコみっぱなし。なんとか「みんなと一緒のフツー」のアタマにするために、伸ばしたり減らしたり悪戦苦闘。弱みを修正する場所がヘアサロン、って思っていたのだ。ま、東洋人の黒髪が珍しいこともあるのだろうが、なんと私の髪が、「ゴージャス」ですと!まず強みをヨイショしてその気にさせ、次に髪を持ち上げて「こんなイメージで、どお?」とゴールである“仕上がりスタイル”を見せて期待を抱かせる。「自信をつけ、目標を明確にすることで、モチベーションを喚起し成功に導く」というIDの手法を、そのヘアスタイリストが知っていたどうかは定かでないが、鏡の中の自分の頬がポッと薔薇色になって、3割がた魅力的に見えたのは事実である。