OPINION 1 「型はずし」のためのリフレクション 「どうやったら、変化を生み出すことができるか」という視点を持つ
「自己流に限界を感じた時こそ、自己変革のチャンス」と話すのは、成人教育を専門とする東京学芸大学の倉持伸江氏。壁にぶつかっても、リフレクション(振り返り)を繰り返すことで、優れたマネジメント力を発揮できるようになるとも言う。
“自己流”しか知らない成功者たち
「おとなの学び」の視点から、学びを支援する人々の養成や研修の場にかかわっているが、何十年もビジネスの世界に生きてきた人は、「自己流」からなかなか脱却できないようだ。
特に指導的立場にあった人や、成功体験を持っている人ほど、自分のやり方を押し通そうとする傾向がある。成人教育の分野では、その人が積み重ねてきた経験を学習資源として活用しつつも、経験によってつくられたものの見方や価値観を問い直し、再構築することが肝要と言われるが、これは容易なことではない。
ある研修で、コミュニティーの課題に対し、受講者が自分の経験談や意見を出し合って解決案を考えるというグループワークを行った。受講者が予想以上に熱心に取り組み、ユニークなアイデアが豊富に出ていたので、当初割り振った発表時間を超えても制止せず進行していた。ところがひとりの年輩の男性が「発表時間は決まっていたはず」と怒り出したことで、場が凍りついてしまった。男性は「ビジネスでは1分1秒が命取り」という考えで、計画通りに実行することが何より大事という価値観の持ち主だった。
別の研修では、講義よりグループでの活動を重視したところ「こんな研修に意味があるのか」「教え方が悪い」と強い口調で責めたてる人がいた。年下の講師に仕切られれば、不愉快になるのも無理はないかもしれない。
ただ、彼らのそうした態度は、単純にプライドや能力の問題では片づけられない。未知のやり方に戸惑い、不安が怒りとして表れた、とも考えられるからだ。
今のマネジメントでうまくいっていると感じ、組織からも高い評価を与えられている人は、自身のやり方に自信を持っている。だから「このやり方でなぜ通用するのか、どんな相手にも通用するのか、いつまで通用するのか」と吟味する機会が得にくい。したがって、自分のやり方をそのまま周囲にも求めてしまう傾向にある。
今までのやり方では通用しないというジレンマを感じた時、自分のやり方に疑問を持つ人と、相手の能力や資質に問題があると考える人とに分かれる。前者なら、管理職としてさらなる成長が望めるのだが、従来のやり方を急に変えられない人も多い。自分の“くせ”は自覚しにくいからだ。
指導方法のくせ、自己評価のくせのほか、善悪の判断の仕方にもくせがある(図)。それらの中に無自覚的に身につけてきたパターン(型)を、自分で見つける作業を意図的に行う必要がある。「自分のやり方が通じない」という状況に置かれ、ショックを受けることが自分を再構築し、状況を変える第一歩である。今、壁にぶつかっている人は、「これは『型はずし』のチャンスだ」と考えてほしい。
書き出して「型」に気づく
「型はずし」のために有効なのは、書き出すという行為だ。日報や月報を定期的に提出させる企業もあるが、「書いて提出して終わり」という一方通行的なものであまり意味がない。後で「読み直す」ことが重要だ。さまざまな出来事を、当時の自分がどう感じ、どう解釈していたかという記録は、自分を再構築する資源になりうる。
振り返りを、欠点や問題点を洗い出すことと考えている人がいるが、そうではない。目的は状況を変えることなのだから、自分に足りないところを見つけるだけなく、「今」あるいは「これから」を変えようと意識してほしい。「どうやったら、変化を生み出すことができるか」という視点を持つことが、リフレクションの最大のポイントである。