巻頭インタビュー 私の人材教育論 仕事の原点は現場にあり──現場を動かす技と発想力を磨け
準大手ゼネコンのうち、トップ集団を走る戸田建設。医療福祉施設、教育施設で業績を誇る他、丸の内オアゾなど有楽町・丸の内エリアでも多くのビル建設を手掛ける。一方、建設業界は他の業界同様、人口減少、少子高齢化の時代を控え、大きな節目を迎えようとしている。そのタイミングで代表取締役社長に就任したのが今井雅則氏だ。大阪を中心に営業の第一線で活躍した経験を持つ同氏が語る、独自の人財育成哲学とは。
“発働型”人財が会社を変える
――アベノミクス以来、建設業界は明るいムードに包まれていますね。2020年には東京オリンピックの開催、2027年にはリニア中央新幹線の開業が予定されています。
今井
資材の高騰や人手不足などの懸念材料はありますが、それでも追い風は吹いていますね。
建設需要が増えているだけではありません。「大企業ほど強い」という業界の定説が崩れ、個性や強みを持つ企業の出番が多くなってきました。お客様の需要や嗜好が多様化しているからです。「右向け右」で皆が同じようなモノづくりをする時代ではないということですね。
当社はゼネコンの中でも、特に個性や強みを持つ会社と自負しています。例えば医療福祉施設や教育施設における実績はその1つ。都立病院の半数は当社の施工です。私も現場の第一線で働いていた時代は、2件ほど担当しました。
――医療福祉施設の建設には、一般の建物とは違うノウハウが必要なのでしょうか。
今井
そうです。例えば、マンションやオフィスビルなどは各階とも同じような設計ですよね。しかし、医療福祉施設は階ごとに役割、機能が異なります。それぞれ業務内容や情報、物流システムを踏まえた設計、施工をしなくてはなりません。部門間の連携や職員の皆様の働きやすさ、心地よい環境づくりも大切です。「ここは特に振動を抑えたい」「空調に気を遣うべき」といった勘所は、経験の蓄積があってこそ押さえることができます。
おかげで近年では医療福祉関係のお客様の間で当社の評判が広がっているようで、さまざまなご相談をいただくようになってきました。そうしたニーズにお応えするためにも、今後は新しい考え方に基づく人財育成が必要だと思っています。
当社の創業は1881年です。初代、戸田利兵衛の人柄を受け継ぎ、社風は堅実、誠実そのものです。人を粗末にしない気風があるせいか、平均勤続年数も20.4年と非常に長い。
その反面、人財が均質で、ややアグレッシブさに欠ける傾向があります。残念ながら2012年3月期、13年3月期と2期連続の赤字決算を出してしまいましたが、こうした社風も影響していたかもしれません。
――今年3月、新たに「人財戦略室」を立ち上げたそうですね。
今井
はい。人財戦略室長には、私自身が就任しました。ゼネコンにとって財産は人です。一人ひとりがどうお客様や職人さんと向き合い、プロジェクトを達成するか
――会社の価値はまさにそこで決まりますから。
教育研修などは従来通り人事部が担当しますが、経営幹部層の養成や海外人財の育成、ダイバーシティ戦略、その他、適材適所の人員配置など、さまざまな人財戦略を担います。
めざすは「発働型人財」の育成です。人間が機械と違うのは、必ずしも他人と同じ考え方や行動をしないことではないでしょうか。自ら問題点を見つけ、自分なりに解決策を考えるのは人間にしかできないことです。そして、それら解決策は十人十色のはず。みんな性格も違えば、育った環境も違いますから。
社員一人ひとりの知恵やスキルを思い切り発揮し、働けるようにしたいですね。みんなが機械のように言われたことだけやるようでは薄っぺらな会社になってしまい、多様なお客様のニーズにお応えできません。