第16回 人もイルカもほめて育てる!?水族館 イルカと共に成長するトレーナーたちの学び 検証現場 新江ノ島水族館 奥山康治氏 新江ノ島水族館 海獣類チームリーダー 他|中原 淳氏 東京大学 大学総合教育研究センター 准教授
新江ノ島水族館は「えのすい」の愛称で知られる湘南江の島にある水族館。中でもイルカ・アシカショーは人気です。動物たちと共に、観客を魅了するショーをつくり出すトレーナーたちは子どもたちの憧れの的。そんな華やかなショーの舞台裏を訪ねました。
新江ノ島水族館は、2004 年に前身の江の島水族館からリニューアルオープンした遊びながら学べる「エデュテイメント型」水族館。その見どころの1つとなっているのが湘南海岸に臨むイルカショースタジアムで行われるイルカ・アシカショーです。現在、新江ノ島水族館では、バンドウイルカを中心にイルカ・クジラ15頭、他にアシカやアザラシなどを飼育しています。
イルカ・アシカショーでは、江の島の風景を眺めながら、ダイナミックなイルカのジャンプや、愛嬌たっぷりのアシカの演技を楽しめます。トレーナーの合図通り、次々と技を披露する動物たちの知能の高さに感心すると同時に、トレーナーたちが、言葉の通じない動物たちと心通わせる姿にも感動を覚えます。
トレーナーたちは、どのようにしてこの魅力的なショーをつくり出しているのでしょうか。トレーナー歴22 年、海獣類チームリーダーの奥山康治さんにお話を伺いました。
多忙なトレーナーの1日
「新江ノ島水族館の海獣類チームのスタッフは獣医等を含め23 名。そのうちトレーナーは19 名で、20 代から30 代が中心です」
トレーナーの1日は朝7時半の動物たちの見回りから始まり、その仕事内容は、多岐にわたります。1日に3-5回、ショーに出演する他、1回10 分程のイルカ、アシカのトレーニングを数回、朝夕の健康チェック、プールや獣舎の掃除、給餌、水質検査や日誌の記入……など夕方まで分刻みのハードスケジュールです。
おまけに厳寒の冬でもウェットスーツ姿でショーを行い、冷凍の魚を扱ったり、重い餌を運んだり、体力的にもハードな仕事だといいます。
トレーナーになるための資格などは特にありませんが、プールでの潜水作業などもあるため、潜水士の資格は全員が持っています。
新人は作業からスタート
トレーナーになってまず任される仕事は、餌運びや掃除など、動物に直接触れることのない作業です。慣れてきたら、先輩の仕事ぶりを見ながら覚え、徐々に難しい仕事を任されるようになります。「新人がまずできなくてはならないのは個体識別です。トレーナーとして一番重要かつ難しい仕事はイルカの健康管理。毎日健康チェックが行われ、1 頭1 頭、1日の摂取カロリーまで決まっています。そのため、泳いでいても、ぱっと見分けがつくようにならないと仕事になりません。初めはどのイルカも同じに見えますが、じきに違いがわかってきます」
イルカはそれぞれ担当が決まっており、通常、イルカ1頭につきメイン担当が1人、サブ担当が2人ついています。新人トレーナーはまず、何頭かのサブ担当になり、イルカに顔を覚えてもらうのだそうです。
最初はイルカと直接かかわることのない作業を行い、徐々に仕事に必要なスキルや知識を習得していきながら、やがて一人前のチームのメンバーとなる、というのは、まさに正統的周辺参加のプロセスそのものだ。
待つこともトレーニング
トレーニングは、トレーナーの重要な仕事の1つですが、これはショーのためだけに行うのではありません。トレーニングやショーをやることは、知的好奇心の強いイルカたちに刺激を与える、運動不足を解消する、体調のチェックをするといった意味もあります。ちなみに、日常の健康管理、採血や検温もトレーニングの一環としてやっているそうです。
実際に、トレーニングの様子を見せていただきました。数頭が一緒にプールに放され、イルカの数以上のトレーナーがプールサイドに立っています。ベテラントレーナーと一緒に、見事なジャンプをしてはほめてもらう、といった調子で技の練習をしているイルカもいれば、ただトレーナーの後について泳いでいるだけのイルカや、新人トレーナーと戯れているだけのイルカもいるようです。「イルカのトレーニングは必ず全員同時に始め、同時に終わります。というのも、好奇心の強いイルカにとって、トレーニングは楽しい遊び。1頭だけがトレーニングをしていると、『あのイルカだけずるい』と、他のイルカが、嫉妬して拗ねてしまったり、その1頭を攻撃したりすることがあるからです。イルカを平等に扱うために、1対1で向き合っています」