本質を追究し、やるべきことを理解させる
世界最大の民間電力会社である東京電力。同社の総合研修センターでは、経営課題や社員の能力開発ニーズを踏まえた研修体系を整え、全社を挙げて徹底した人材育成に取り組んでいる。栗原正明氏は、2008年7月に総合研修センター実践技術グループマネージャーに就任。同氏は、慶應義塾大学の非常勤講師や、複数の中学校で講師として講義を行うなど、学校教育の現場でも教育経験を持つ人物だ。そうした栗原氏が抱く思いは、若いうちから「なぜ学ぶ必要があるのか」という目的をしっかりと意識できる人材を育てたいということ。栗原氏に人づくりへの想いを伺った。
管理職の仕事の半分は部下育成である
東京電力では、「コースマスター」という称号がある。2006年、若手技術者の育成を目的とした「実践力開発プログラム」をスタート。この時に、プログラムを運営するメンバーを「コースマスター」と称し、研修プログラムに対する深い理解はもちろんのこと、プログラムを進化させていく能力も持ち合わせて業務に取り組ませている。
その使命は重要である。研修で学んだことを実際の職場で実践できるようにするためには、若手技術者だけでなく、現場で彼らを取り巻く人々をいかに巻き込んでいくかが重要なカギとなるからだ。研修の意味を理解させ、人々を納得させるには、コースマスターは現場の社員と本気で語り合い、ともにプログラムを進化させ学び合うという高い意識を持ち、自らも自律をめざして学習・実践ができなければならない――。
現在、この「実践力開発プログラム」を運営するコースマスターを束ねているのが2008年に総合研修センター技術研修部実践技術グループマネージャーに就任した栗原正明氏である。
もっとも、栗原氏にとってこの辞令は予想外のものだった。それまで栗原氏は、人材育成の仕事に就くことを希望したことはなかったからだ。
しかし栗原氏には、人材育成についての強い関心があった。高校、大学と運動部の主将としてチームをまとめる中で、チームのパフォーマンスを向上させるにはリーダーシップはもちろんだが、構成メンバー一人ひとりの能力を高めることが必要であることを理解していたからだ。
栗原氏は、1987年に東京電力に入社。管理職になった頃から、部下育成に強い関心を持つようになったという。
そしてマネジャーとして、仕事を進める上での自らのポリシーを部下に伝えている。それは、マネジメントに対する信頼、職場(仲間)との一体感、仕事に対する誇りの3つだ。「管理職の仕事の半分は、部下育成であると思っていますし、メンバーには、3つのポリシーのうち1つでも欠けていたら、指摘してほしいと伝えています」
栗原氏の、こうした言動・行動の1つひとつが、コミュニケーションや風通しの良い職場風土を醸成し、結果的に部下育成につながっているのだ。