TOPIC ①ノーベル平和賞受賞者ムハマド・ユヌス氏来日シンポジウムレポートビジネスと社会性の融合が生み出す可能性
世界の貧困や人権侵害などの解決に、ボランティアではなくビジネスを通じて貢献する「ソーシャル・ビジネス」が今、注目を集めている。その火つけ役ともいえるのが、貧困層への融資を行うグラミン銀行の創設者であり、ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌス氏。そのユヌス氏を招いて、2012年7月24日に日本財団にて開かれたシンポジウム「ビジネスと社会性の融合が生み出す可能性」を紹介する。
ユヌス氏を「触媒」に対話を
ソーシャル・ビジネスとは、環境や貧困などの社会的な問題解決に貢献しながらも利益を上げビジネスとして成立させることで、持続的なかかわりを可能にするものだ。近年、日本でも徐々に注目が高まり、3.11を機にさらに高まった感がある。
本シンポジウムでは、ソーシャル・ビジネスの生みの親ともいえる、ムハマド・ユヌス氏を招き、これから社会がどのように変わるのか、その中で個人はどう生きるのか、さまざまな角度から話し合われた。
冒頭、主催者の由佐美加子氏からは、「今日は、ムハマド・ユヌス氏を“触媒”に、今後私たちがどのような働き方、また生き方をしていくかを考える機会としてほしい。これからの世の中では、組織よりも、まず個人が変わることに焦点を置く必要があると考えています。そして、考えるためには、他者と対話することが大切です」との挨拶があった。
会場には90名ほどが集まり、4~5名ごとに丸テーブルに着席、対話がしやすいレイアウトになっている。ユヌス氏との対話は、今、日本のソーシャル・ビジネスの分野で注目されている5名が代表して行った。
ユヌス氏の登場前に小林氏を除く4名がそれぞれ、「私のソーシャル×ビジネス」と題し、自己紹介を兼ねたプレゼンテーションを行った。本稿では、自らソーシャル・ビジネスを立ち上げた本村氏と白木氏を中心にプレゼンテーションの内容を紹介する。
【第一部】プレゼンテーション
貧困問題に関与するために稼ぐ
株式会社グランマは、2009 年に当時25歳の本村氏が友人2名とともに創業。
翌2010 年5月に東京で開催した「世界を変えるデザイン展」には5万人が来場し、話題となった。
この展覧会は、発展途上国の人々が直面する問題を解決するために生み出されたプロダクトを紹介するもの。たとえば、水汲み用のドーナツ型ドラム缶。これはドラム缶を横に倒し、真ん中の空洞に紐を通して転がしながら引っ張れば、子どもや女性の力でも簡単に移動できるようになっている。このようなプロダクトデザインが考えられるのは、発展途上国ならではといえるだろう。「貧困は想像力の欠如によって起こる」と定義するグランマでは、先進国の人々の想像力を喚起し、解決へとつなげることを目標にしている。
といっても何ができるのか、まだまだ手探りの部分も大きい。「世界を変えるデザイン展」を開いた時も、利益が最初から見込めたわけではない。「仕事を通じて、貧困の解決に関与したい。その目的のため、まず会社を軌道に乗せようと奮闘しているところです」と本村氏は語る。世界の課題解決への貢献と、利益を維持するビジネスを両立させることの難しさとやりがいが感じられた。
“倫理的な”ジュエリーをつくる
白木夏子氏は、投資ファンド事業会社勤務などを経て、2009 年4月にHASUNA Co.,Ltd.を設立。現在は、代表取締役とチーフデザイナーを兼任している。
HASUNAは、「エシカル・ジュエリー」と呼ばれるジュエリーを製造販売するビジネスを展開。「エシカル」は、「倫理的」という意味があり、児童労働や環境破壊といった倫理に反するプロセスを一切経ずにジュエリーをつくっている。
白木氏が“エシカル”に着目をしたのは、発展途上国について学んでいたロンドン大学キングスカレッジ時代に、発展途上国の研究のため、インドへと渡ったことがきっかけだった。
貧困層2000万人が働く小規模鉱山に足を踏み入れた白木氏は、いつ事故が起きてもおかしくない鉱山で、非常に安い賃金で、命をかけて働かざるを得ない人々を目の当たりにした。そうして採掘された鉱物が安く買い取られ、先進国の人々が身につけるジュエリーとなる……。それに疑問を持ったが、当時学生の白木氏は「お金もなく、ビジネスの人脈もない、無力な自分にショックを受けました」と振り返る。
その後、国連インターンや金融業界などを経験。実際に働く中で「貧困問題の原因は、企業の倫理観の欠如ではないか」と考え、HASUNAを設立したのである。
同社では、原石を採掘する鉱山労働者にもきちんと賃金を支払えるように契約を結んでいる。かといって他社より値段を高くジュエリーを販売してはビジネスとして成り立たない。そこで理念に共感してくれるプロボノの手を借りたり、宣伝広告費を抑えたりすることで、ビジネスとして成立させているという。
バックパッカーとして世界を旅した本村氏と、インドに滞在した白木氏。この二人の共通項は、発展途上国の貧困に喘ぐ人々の暮らしを実際に垣間見たこと。そして、実体験から彼・彼女らを助けたいと感じ事業を開始したということである。それは、貧困層のためにグラミン銀行を創設したユヌス氏が「貧困層を助けることで、実は自分自身が救われた」という生き方に通ずる。