ソーシャルラーニングで個の力を組織の力に
タブレット端末やスマートフォンの台頭・普及、新しいソーシャルメディアの登場により、企業や学校での“学び”の形が変わろうとしている。“学び”のデジタル化(=モバイルラーニング/ソーシャルラーニング)は現在どのような状況にあるのだろうか。さらに今後、企業においてはどのような活用法や展開が考えられるのだろうか。デジタルコンテンツの普及促進や教育のIT化などにかかわってきた慶應義塾大学 メディアデザイン研究科教授 中村伊知哉氏に聞いた。
デバイス・ネットワークサービスにおける転換点
現在、教育におけるITツールの活用が期待されている。その有効性や必要性については20年以上前から言及されてきたが、2011年になって大きな転換期を迎えたのである。
まず1つめはデバイスの変化だ。テレビとパソコン、携帯電話に次ぐ第4のメディアが2011年までに一斉に出そろった。タブレット端末や電子書籍リーダー、電子黒板と呼ばれる大型のディスプレイ、電子看板(デジタルサイネージ)といったメディアが新たに登場・流通したことによって、デジタルで文章を読んだり、書いたりといったことが格段にやりやすくなった。
第二には、ネットワーク環境が整備された。インターネットが普及し始めたのは1994年頃。それから15年以上経ち、2010年から2011年にかけて、政府は国を挙げてのブロードバンドの全国整備と地上テレビ放送のデジタル化を行った。
そして、メディアやネットワークを使って提供されるサービス、つまりコンテンツも変化した。ここ15年ほど、日本政府はコンテンツを日本の成長産業として成立させたいといい続けてきたが、広告費が少なくなっているためコンテンツ産業は縮小方向にある。
むしろネットワーク上の何にお金や情報が集まるかというと、コンテンツではなく“ソーシャル”だということがこの1年ではっきりしてきた。コンテンツを軸に人と人がつながるコミュニティ――つまりソーシャルメディアが注目されるようになったのである。ミクシィやツイッターなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)もその一例だ。
この3つにおける変化を前提として、従来とは異なる学習方法が出てきている。
それが、タブレット端末やスマホなどのデバイスを使った、時間や空間に捉われない学びであるモバイルラーニングや、SNSを介したソーシャルラーニングである。
教え合い、学び合う双方向コミュニケーション
ソーシャルラーニングについては、現在すでに大学レベルでは導入している機関も多く、私が所属する慶應義塾大学メディアデザイン研究科でも、ツイッターと生の講義を組み合わせてゼミを行っている。そのメリットは、一方通行ではない“学び合い”ができることにある。
受講者(大学院生)は全員ネットにつながったパソコンを持っており、講義を受けながら、ツイッターに感想やコメント、疑問点をツイートして(書き込んで)いく。個人のパソコン画面上でもそれらの発言を読むことができるし、プロジェクターで映して全員で共有することもできる。