イノベーション人材なくして日本の復興はない
昨今、「イノベーション」という言葉をよく耳にする。だが、その本質を理解している人は少ない。イノベーションとは突飛な発明品ではなく、実際に世の中に変化をもたらすリアルな革命である。その芽を個人のアイデアで終わらせず、形になるまでの道筋をつくるにはマネジメントが必要である。イノベーションの本質と、それを支えるマネジメント、そしてイノベーションを起こせる人材に必要なもの――それらを、アメリカズカップやグリーンニューディール沖縄、東北復興と大プロジェクトをマネジメントしてきた宮田教授に聞く。
イノベーションとは「不連続の変化」である
なぜ、今、イノベーションが必要なのか。
近年の日本経済低迷の大きな原因は、競争力の低下にある。これまで日本企業は「もっと性能を高めよう」「もっとコストを下げよう」と努力してきた。
しかし、これはどの国のどの企業でも実現可能で、そうなると結局、消耗戦に陥ってしまう。生産性やパフォーマンスの向上だけで競争力を保てる時代は、残念ながらすでに終わっている。
私は、人・企業・産業・国などにはライフサイクルがあり、誕生⇒成長⇒成熟⇒衰退と変化すると考えている。成熟・衰退の局面に入ったら、既存のものにしがみつかずに、新しく誕生・成長サイクルを生まなければならない。つまり、「不連続の変化」が必要であり、これを可能にするのが「イノベーション」である。
だが、「イノベーション」の本質を理解している人は少ない。“面白い発明品がイノベーションである”という誤った捉え方が目立つ。たとえば、政府が2007年に発表した長期戦略指針「イノベーション25」の中間報告書でも、例として「カプセル1錠で寝ながら健康診断」「走れば走るほど空気を綺麗にする車」など突飛なものが挙げられている。
過去のイノベーションについて勉強をすればわかるが、イノベーションとはもっと身近で、リアルなものである。そしてそれによって世の中に、つまり産業構造や人々の生活といった全てのものに、ある程度以上の変化を与えることが絶対条件だ。
イノベーションの5分類
不連続の変化を起こすとは、革命である。その性質は、生産性の向上やパフォーマンスの向上とは全く異なる。これらは地道な努力でも可能だが、イノベーション創出には、それ以前とは全く違った経営、組織、プロセスが必要になる。
そこで最初にイノベーションとは何かを知るため、イノベーションの5分類を紹介する。(1)新原料/新材料material/element innovation(2)新製法
process innovation(3)新製品
product innovation(4)新ビジネス business innovation(5)新システム systems innovation
日本がこれまで得意だったのは(2)のいわゆる生産技術に関するイノベーション。代表例はトヨタである。これこそが、日本の高度成長を支えてきた。だが今では他国に真似をされ、競争力の源泉ではなくなっている。
日本が苦手なのは(3)。よくいわれる話だが、コンセプトをゼロから考えるのが苦手というわけだ。
ウォークマンやプリウスのような日本オリジナルの製品はあくまで稀で、1960~70年代の鉄鋼や造船、1980年代以降の自動車やエレクトロニクスの分野でも、欧米で生まれた商品モデルをお手本にして、プロセス・イノベーションで価値を付加したというケースが圧倒的に多い。
しかし、(3)をも越えて、今後、注力していかなければならないのは、(4)と(5)だ。もはや、プロダクトだけでは売れない。プロダクトとサービス業の融合による新しいビジネスの流れが、今後もっと大きくなるだろう。
なお、(5)の“システム”という言葉はさまざまな使われ方をしているが、ここではソフトウェアからハードウェアまで全てを結合することで成り立つ、独立したシステムをさす。発電システム、水事業などがこれに当たる。