2012年も不安定な社会情勢続く中国進出に必要な寛容と割り切り
中国に進出した日本企業が、反日デモで槍玉にあげられ、労働者ストライキで真っ先に攻められる――。
これが日本人が抱く中国のイメージかもしれない。だが、そうした風景は、広大な中国における一面に過ぎない。
日本企業が中国の人々と信頼関係を築き、円滑な企業活動を行うためには、
偏見やマイナスの印象を取り払って正面から中国と向き合い、理解を深めることが不可欠だ。
本稿では、中国で「加藤現象」との言葉が使われるほど、今や「中国で最も有名な日本人」と称され、
8年にわたり内側から中国を見つめてきた加藤嘉一氏に、
中国とはどのような国なのか、日本企業は中国でビジネス展開するうえで何を覚悟すべきなのか、
そして2012年、中国はどこに向かうのかを聞いた。
増加する集団引き抜き標的にされる日本企業
今から数カ月前のこと。中国における日本企業の某工場で1つの“事件”が起こり、日本人関係者の間に衝撃が走った。「約50人もの中国人ブルーカラーたちが、一斉に姿を消した」――。
上海から北西に行くこと約50㎞、蘇州市・昆山県という地方都市がある(中国の行政区分では「県」は「市」の下に当たる)。ここに立地する日本企業の工場で、中国人労働者たちが突如、「仕事を辞める」といい出したのだ。「中国の民間企業が日本企業で働く工場労働者に目を着けて、大量にヘッドハンティングしていった」(工場関係者)というのである。
昆山といえば、国際的大都市の上海と蘇州に近いという利便性を兼ね備えているだけに経済発展著しく、中国国内においてはロールモデルの1つとなっている県レベル都市だ。2010年の昆山県のGDPは2100億元(約2兆5820億円)、戸籍人口で計算すれば1人当たりGDPは約233万円にもなる。まさに改革・開放を象徴する商業都市であり、日本に限らず、多くの外国企業がこの地に工場を建設している。
その中でも中国企業による“引き抜き”のターゲットとなったのは、日本企業で働く労働者だけ。
理由は単純である。中国の民間企業にしてみれば、日本企業で働く中国人労働者は“良質な教育”を受けた優秀な人材だからだ。
たとえば反日デモで被害にあった四川省・成都のイトーヨーカドーに足を運んで見ると、雨の中、店の外に並ぶ顧客に対し中国人従業員が傘を差し出す姿が見受けられた。消費者目線のサービス精神が根づいているのだ。
これが工場の場合であっても、日本の優れた仕事観を身につけているのはもちろんのこと、欧米系企業で働く労働者よりも時間やルールをしっかり守ることが大切だと熟知しているし、あるいは協調性もある――。そうした認識が、中国企業側にあるのだろう。
中国の民間企業にとって、即戦力となる人材の獲得は急務だ。しかし、自前で労働者に教育を施すほどのノウハウや資金余力を持ち合わせていないところも多い。そこでターゲットにされたのが、すでに日本企業で徹底教育された労働者だったのだ。
日本企業が与えていた報酬の1.2~1.5倍ほどを提示したところで、「それでも引き抜いたほうが割安」(国務院関係者)というわけだ。