巻頭インタビュー 私の人材教育論 トップダウンは嫌い。「自らやる」組織こそ一丸となって夢を追える
リーマンショックの痛手を乗り越え、見事にV字回復を果たしたTOTO。中国での売上などが急伸し、快進撃を続けている。強さの源泉は、同グループ独自の「文化」と「自律型人財」、と言い切る張本邦雄社長。「自分の言葉で、行動で、自ら革新を巻き起こす集団を創る」と話す、その決意と展望を聞いた。
人も組織も「夢」があるから頑張れる――貴社は、20年以上前に中国、米国に進出。以来、広範囲に海外事業を展開されてきたグローバル先進企業でいらっしゃいます。さらに2011年1月には、インドに現地法人を設立。2013年にはインド初の衛生陶器工場を稼働させると発表されました。
張本
会社員になったのは、親父の背中を見て育ったからです。社員が5名の零細企業を経営していたんですが、汗水たらして働いていましたよ。年度末になると本当にしんどそうでね。「お前はサラリーマンになれ」というのが口癖でした。そのための勉強はいくらでもさせてやるぞ、と。実際、早くから家庭教師をつけてくれたりと、教育には熱心でした。
結局、早稲田大学に入学したわけですが、ここが非常にいい大学で。成績表に一切「不可」をつけないんです(笑)。その素晴らしい成績表をひっさげて、どこに就職しようかと少し迷ったあげく、選んだのが当社。こじんまりしてはいても先駆的企業で、しかも総務部長がとても優しい人だった。「ぜひうちにいらっしゃい」といってくれましてね(笑)。ちょうどこの頃、本社のある九州以外の出身者を増やそうとしていたそうで、私は東京出身ですし。
――入社されてからは、どんな方の背中を見て社会人生活を送りましたか。
張本
当時、直属の上司だった課長です。毎日、夕方5時半になると必ず退社する。私が仕事していると「おい帰るぞ」と声をかけるんです。「まだ日報を書き終えてないんですけど」というと、「だって、お前今日、日報書くほど仕事してないだろ」と(笑)。で、そのまま酒を飲みに行くんですが、バカ話ばかりで仕事の話なんてこれっぽちも出さない。そういう方でした。この課長からは大いに影響を受け、多くのことが今の私の基礎になっています。
5時半に帰るとなるとダラダラ仕事をしてはいられない。最短距離で物事を考え、仕事を進める頭の構造になります。そもそも仕事で100点なんて取れっこないんですから、30分で70点分やったほうがいい。残り30点分は翌日取れば済む。明日に回せる仕事は明日やるべきなんですよ。
もう一つ、その上司のすごいところは、こちらが相談に行くまで絶対に部下の仕事に口を出さないこと。で、相談すると必ず「お前、どうする気だ」と聞く。「これこれこうしたいと思います」と答えると「じゃ、そうすりゃいいじゃないか」という。お客様のところへ同行してくれるのはお礼か、謝りに行く時だけでした。彼がいいたかったのは、こういうことだったと思います。「自分が担当者である以上、お客様を一番知っているのは自分。つまり、どうすべきかを考えるのは自分であり、正解を出せるのも自分だけ」。
こんな調子でしたから、何事も考えて行動させられた。あの課長に会わなかったら、まともなサラリーマンになれなかったと思いますね。