韓国企業から学ぶグローバル化に備える危機感
米国やヨーロッパを始めとして世界的な不況が続く中、韓国企業が成長している。かつて韓国企業は日本企業をベンチマークとしてきたが、IMF経済危機を契機に、グローバルスタンダードの経営戦略に切り替え、世界的な競争力を持つに至った。韓国企業の強さの源泉はどこにあるのか。そして、今後日本がグローバル化を推し進めるにあたって、韓国から何を学ぶべきなのか。ソウル大学国際大学院教授の金顕哲氏に聞いた。
変化の波に乗れるかが勝敗を分ける
韓国企業の活躍が著しい。サムスン、LG、現代自動車、ポスコなどの韓国企業は右肩上がりの成長を遂げ、今や世界の名だたるグローバル企業として展開を広げている。
なぜ韓国企業がこのように国際的に強い競争力を持つようになったのか。実力もあるが、実はそれ以上に環境の変化の波に乗れたことが大きい。デジタル時代の到来と、グローバル化の進展という2つの大きな変化の波が、韓国企業の成長を後押ししたのである。
1つめの波、デジタル時代の到来はIT化が進んだ1990年頃のことだ。それ以前のアナログ時代には、日本企業は職人の技による高品質のものづくりによって競争力を築いてきた。
ところが、デジタル時代ではモジュール化によって規格が統一され、品質も真似しやすくなる。そうなると、ブランドやデザインといった表面的な部分で差別化が起こる。韓国企業はこの点にいち早く着目し、品質よりも広報戦略やブランドイメージの確立に力を注いだのである。
韓国には「パリパリ(韓国語で“早く早く”)文化」が根づいており、たとえリスクがあっても積極的に挑戦していく風土がある。対して日本は、アナログ時代にすでに成功していたことも相まって、デジタル時代への対応が慎重になった。このスピードの差が、現在の日韓企業の差を生んだ1つの要因だといえるだろう。
2つめの波は、グローバル化と新興国の成長だ。それまで、世界の経済圏は地域単位で存在し、日本は米国とヨーロッパ、つまり先進国での展開に注力してきた。ところがグローバル化の進展につれ、BRICs諸国を始めとした新興国が急成長する。しかし先進国で成果を上げてきた日本企業は、リスクが高い新興国に参入する必要性を感じていなかった
一方で韓国企業は、先進国では成果を上げられていなかったため、素早く新興国に切り替えた。その結果、新興国の成長とともに力を伸ばしていくことができたのだ。
こうした流れの中で起きたのが2008年のリーマン・ショックである。先進国市場をターゲットとしていた日本企業にとって、リーマン・ショックによる打撃は非常に大きかった。だが、韓国の場合すでにグローバル市場展開の足場を新興国に置いていたため、さほど大きな打撃を受けずに済んだ。
これら一連の環境変化が、今日の韓国企業の躍進をもたらしたのである。。
リーダーシップの違い皇帝韓国と殿様日本
デジタル時代への対応や、新興国への展開といった新しい試みにはリスクも伴う。リスクを負ってでも挑戦をするとなると、それにGOサインを出す強いリーダーが必要だ。
戦後の日本では、経営者の牽引力が非常に強かったが、その後の長い高度経済成長時代に、日本のリーダーシップは“退化”してしまった。強いリーダーが不在でも現場に任せる経営で成長できた安定成長時代が続いたからだ。