CASE.1 アサヒビール 武者修行系研修のマネジャー育成効果 異業種への武者修行で得られる 次世代リーダーとしての学び
「武者修行研修」という、何とも勇ましいネーミングの研修を行っているのが、ビール業界大手のアサヒビールだ。次のリーダーとなる社内人材を、ビールとは縁もゆかりもない異業種に出向させ、1年間にわたって“鍛えてもらう”この制度。その制度を中心に、新任・若手マネジャーへの教育・支援策について話を伺った。
●背景モノカルチャーからの脱皮をめざす
武者修行の名にふさわしい初日だった。国内営業畑出身で、それまでほとんど英語を使うことがなかった荒井氏(現・国際部門マネジャー)だが、出向したヤマト運輸のグローバル事業推進部の上司に開口一番言われたのが「これからミーティングするから、先週あったこと英語で話してくれる?」。3日後には香港出張を命じられ、1カ月後には一人で行ってこいと、また香港へ送り出された。
2008年よりスタートしたアサヒビールの「武者修行研修」。異業種企業に1年間社員を出向させ、同時に相手企業からも人材を受け入れる。こう聞くと、「しょせんお客様扱いなのでは?」と思ってしまうが、荒井氏の例からもわかるように、そこには甘えも気遣いも存在しない。事実、「遊びに来たんじゃない。結果を出せ」と荒井氏も叱咤された。「相手企業の人間になりきらなければやる意味がない」(アサヒビール人事部担当課長宮田耕平氏)ことをお互いが前提としている。
研修としては異色といえるこの制度だが、そもそもどんなきっかけでスタートしたのだろうか。「当社は長くビール事業を中心に成長してきたモノカルチャー企業(数品目依存・同質的文化企業)とされてきました。かつてはスーパードライの成功のように、全員が一致団結して同じ価値観を持って働いていれば成長が可能でした。しかし、現在はニーズの多様化やグローバル化が進み、そのままでは成長は見込めない。異文化を吸収した、より多くの価値観を持つ人材が必要との思いから始まった研修です」(宮田氏)
対象となるのは20~30代前半の若手。職種は問わない。物流、IT、鉄道、マーケティングなどの異業種企業とパートナーを組み、相互に人材を交流させる。会社にとっては、言ってみれば1年間の人件費がまるごと研修費となる。それだけに、誰でもよいというわけにはいかない。「人選は慎重に、次世代のリーダーとなり得る社員を選びます」(宮田氏)そうやって選んだ有望な若手に、海外事業や経営企画など、会社側として積ませたい経験をリストアップし、パートナー企業と相談。うまくマッチングできれば、晴れて修行の開始となる。アサヒビールではマネジャーに求められる資質を3つ挙げている。それは「ビジョンを描けること」「ゼロベースで発想できること」「PDCAをしっかり回せること」。武者修行研修はマネジャー育成を直接の目的としたものではないが、自社にとっての次世代リーダーに異業種・異文化を経験させることは、「視野の広がりや発想力など、マネジャーとしての資質を鍛えることにもつながる」と宮田氏は語る。