Opinion 2 必要なのはリーダーシップ教育 自ら考え判断し行動する経験を与え 抱え込ませない配慮をせよ
就職氷河期世代の新任マネジャーは、後輩を指導した経験が少ない。にもかかわらず、短期の成果を求められている。こうした環境に置かれた新任マネジャーは何をすればいいのか。また、そうした新任マネジャーを支えるために、人材開発部門は、どのような支援を行えばよいのだろうか。
ASTD日本支部理事兼リーダーシップ開発委員会委員長を務め、『マネジャーになってしまったら読む本』の著者でもある永禮弘之氏に聞いた。
マネジャーに必要なのは「自分の軸」を持つこと
マネジャーの役割を端的に言えば、「チームの成果をコンスタントに上げ続けること」。そしてそれは、「部下の仕事を通じて成し遂げる」ものである。そこで新任マネジャーが考えるのが、“どうすれば部下と信頼を築き、部下が仕事の成果を上げてくれるか”だ。しかし、それは簡単なことではない。たとえば、マネジャーになると「部下に信頼されるためには、部下より仕事ができなければならない」と考えがちだが、未経験の部署に配属されれば、実務に関する知識や経験は部下のほうが豊富である。そうした中、仕事の遂行能力で部下に頼られることは難しいだろう。同様に「指導力が必要だ」と考えても、年上の部下が相手だと、指導はおろか接し方さえわからない。さらに――これは、プレイヤーとして優秀だった人に多い発想だが――自分のやり方を部下に押しつけてしまう人もいる。そうなると、部下の反発を買うか、単なるイエスマンを生み出すだけになってしまう。
人はマネジャーになると、とかくリーダーシップを発揮して、部下を統率しなければ、と思いがちだ。その時イメージするリーダー像は、戦国武将や維新の志士といった歴史上の偉人たち。そんな偉人と自分を比べ、「自分はリーダーに向いていないのでは」と不安になってしまう。しかし、マネジャーとして経験の浅い人が、いきなり歴史上の偉人のように強く頼りがいのある人になれるわけがない。であれば、新任マネジャーは何をすればよいのだろうか。まずは、仕事をするうえでの「自分の軸を持つ」ことが大事だ。自分の軸とは、大切にしている価値観やめざしている理想、仕事の目標であり、判断や行動の拠りどころとなる。しっかりとした軸を持った上司は、複雑な状況や困難な局面においても判断や行動がブレない。それが部下の信頼を高める土台となる。
まずは「できること」を広げていく
自分の軸を持つために必要なのは、「自分で考えて判断し行動し、その結果から学んでいくこと」、言い換えれば、「自立」と「自律」である。
人が学習するのは、7割が経験、2割が人との関係、残り1割が研修などの勉強からといわれている。つまり、マネジメントスキルや知識だけを増やしたところで、経験がなければ自分の軸は育たないのだ。