Opinion 1 “追いつめない”支援のススメ 「弱さ」を認めるところから始まるマネジャー育成
バブル崩壊後の就職氷河期時代に就職した30代、40代が管理職となり、「新任・若手管理職が育たない/成果を上げられない」という声が聞かれるようになってきた。
中原淳氏は、過去数年の実証研究に基づき、新任・若手管理職を育成するためには、「人事・育成担当者、さらには経営者が管理職育成についての意識を変える必要がある」と話す。人事・育成担当者は、マネジャーの成長に対してどのような支援ができるのだろうか。
マネジャー育成支援の重要性
私は、マネジャーとしての成長は「弱さ」から始まる、と考えている。「弱さ」などと言うと「できないマネジャーをどう底上げするか」といった趣旨の話かと誤解されることもあるが、そうではない。ソロプレイヤー時代には優秀な成果を上げられる人であっても、マネジャーになった当初はできないこともあるし、不安や課題がある、ということである。この「できなさ」「不安」といったものを「弱さ」という言葉で喩えている。「初めはできないこともある。できないことは学ぶ必要がある」という前提で新任・若手マネジャー育成を捉え、マネジャーがより強く成長できるような支援が必要だ。私がマネジャーに関する研究を始めたのは数年前のこと。きっかけは、同世代の友人たちが次々と管理職となり、一様に不安や課題を抱えながら悩んでいたことだった。
昇進は本来喜ばしいことのはずなのに、なぜ彼らは悩みを抱えているのか。人材育成に関する既存の調査でも、マネジャー育成は近年、経営上の課題として常に上位に挙がっている※1。
「マネジャーになる」ということは新しいことに挑戦することであり、そのことに対する不安は、今も昔も変わらないはずだ。しかし、調べていくうち、組織や職場の変化が、マネジャーになることをこれまで以上に難しくしている面があることがわかってきた。私は、今、新任・若手マネジャーに起きている問題は、「トランジション(役割移行)」の問題だと捉えている。社会の変化が大きくなればなるほど、その歪ひずみは「役割移行の問題」に現れる。学生から社会人への移行の難しさが、新人の問題であり、ソロプレイヤーからマネジャーへの移行の難しさが、新任・若手管理職の問題となっているのだ。いずれにしても、社会システムが大きく変化する時、ものごとの境目、際にあるものは犠牲になりやすい。
マネジャー受難の時代
それでは何がマネジャーになることを難しくしているのだろうか。その理由の1つは、マネジャーへの移行が「突然化」しているということだ。以前は、管理職になる前に、次長、課長、課長代理、課長補佐といった役職があり、「管理職代行経験」を積むことで、マネジャーへの移行は段階的に少しずつ行われていた。ところが、組織がフラット化し、こうした中間的な階層が廃止された結果、トレーニング期間がないまま、メンバーからいきなりマネジャーになる、というケースが増えている。また、職場の「多様化」も原因だ。以前は男性正社員を中心とした均質化されたメンバーばかりだったが、今や雇用形態、国籍、年代の異なる人たちに対処しなければならない。さらに、成果を求める風潮の中で、マネジャーという肩書きが、マネジメントだけを行うポジションではなく、単なる役割の1つと化してしまった「役割化」の流れもある。今やマネジャーといっても、プレイングマネジャーが大半を占めており、上手に「プレマネバランス」を取って両方の役割をこなしていかなければならないのだ。さらに、最近ではコンプライアンス、個人情報保護、部下へのメンタルケアなど、マネジャーとしての業務が増え続けている。業務量増加による「多忙化」もあいまって、マネジャーになることは、もはや「面倒な役割が1つ増えただけ」と否定的に捉えられている側面もある。
では、「マネジャー受難時代」の新任マネジャーたちは、具体的にどのような不安・課題を抱えているのだろうか。中原淳+日本生産性本部「マネジメントディスカバリー:マネジャーへの役割移行と発見に関する調査」※2の結果によると、新任・若手管理職の抱える不安は大きく分けて4つある。
1.業務量不安…業務量増加に対する不安