ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第5回 部下のメンタルヘルスに良いマネジメント・悪いマネジメント
依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。
1.マネジメントスタイルの影響力
厚生労働省による調査で、働く人の約6割が自分の仕事や職業生活に関して強い不安、悩み、ストレスがあると回答しています。中でも最もストレスだと報告されている項目は「職場の人間関係の問題」です※1。職場の人間関係は個人の問題として捉えられがちです。しかし、実は上司の仕事に対する姿勢や部下への接し方が、人間関係を含む職場風土に少なからず影響を与えています。上司がどのようにマネジメントするかによって、職場の雰囲気や働きやすさが形づくられているといっても過言ではありません。それゆえ、職場におけるメンタルヘルス対策や健康いきいき職場づくりを進めるにあたり、上司のマネジメントスタイルはキーファクターの1つとなっています。誤解を恐れずに言えば、職場が活性化するか、逆に部下が疲弊してしまうかは、上司のマネジメント次第なのです。連載第5回である本稿では、「マネジメント」に焦点を当てて、近年研究によって明らかになっている、部下がハラスメントだと感じるマネジメントスタイル、あるいは逆に部下が最もストレスを感じないマネジメントスタイルなどを紹介し、人事労務部門からどのようなアプローチが可能なのか、考えてみたいと思います。
2.部下を疲弊させるマネジメントスタイル
部下を疲弊させてしまうマネジメントスタイルと聞いて、どのようなものを思い浮かべるでしょうか。すぐに思いつくのは、「専制君主型」かもしれません。「俺の言うことを聞かないと……わかってるんだろうな」というように、絶対服従を強制する、一国の王様のように振る舞うタイプです。このタイプの上司は、部下に多大なストレスをもたらします。部下は「言うことを聞かないと怒られる」と萎縮してしまい、意見を言うこともできず、恐怖や不安の中で仕事を進めることになり疲弊します。それだけではなく、こうしたマネジメントスタイルはいじめやパワハラなどのハラスメントとも関連が大きいことが研究※2でわかっています。部下を自分の思い通りにしようとする上司がパワハラをする、というのは想像しやすいでしょう。ただ全く正反対のマネジメントスタイルも、実は、パワハラや部下のストレスと関係があることがわかっています。正反対とは「消極・放任型」(決断や対応を避ける、逃げ腰タイプ)です。簡単に言えば、管理職というポストには就いているけれども「何もしない」上司のこと。たとえば必要とする時に不在であったり、重要な問題に介入するのを避けたり、見て見ぬふりをするタイプのことを指します。我々の研究※3で、このタイプの上司を持つ部下を半年間追跡したところ、半年後になんと部下の7割に「心理的ストレス反応がある」という結果が見られました。この割合は他のマネジメントスタイルと比べて最も高く、「関心を示してもらえない」「何もしてくれない」という状況が、いかに部下を疲弊させているかが想像できます。