CASE.3 日本航空 危機を乗り越える 新たな判断基準を策定し、 使命を再発見する「人間力」
経営破綻したJAL再建のため、会長として迎えられた、京セラ、KDDIを創業した稲盛和夫氏。稲盛氏といえば、アメーバ経営や、企業家を育てる「盛和塾」などで知られている、日本を代表するプロ経営者である。そのリーダーシップのもと、みごと就任2年目には過去最高益を記録、V字回復を実現する。稲盛氏が行った人間力を基盤にした意識変革に迫る。
●背景中からは見えない、機能不全
意識改革・人づくり推進部部長の野村直史氏は、会長に着任した稲盛和夫氏が日本航空(以下、JAL)を評して言われた言葉が忘れられない。「JALは慇懃無礼な会社だ」と。そして、自らの体験から、「JALの利用を避けている」という話もされたのだった。
2010年1月、JALは経営破綻し、株式も上場廃止。瀕死の状態となった。そこに事業再建のために招かれたのが、京セラ、KDDIを創業した稲盛氏だ。
稲盛氏はJAL会長に就任するや、社員の意識改革、部門別採算制度の導入などに着手。そこから業績はV字回復を見せ、2012年9月には2年7カ月ぶりに再上場を果たす。連結の営業利益も3期連続で大幅黒字と、奇跡の復活を遂げた。復活の陰で、JAL社員と稲盛氏の間にどんなやり取りがあったのだろうか。野村氏は当時の心境をこう語る。
「稲盛さんは、厳しいことをたくさんおっしゃっていました。慇懃無礼で官僚体質だ、採算意識がない、経営者意識も足りない……。それを最初から、その通りだと思った社員はいないはずです。一人ひとりは一生懸命やっているわけですし、自分が慇懃無礼なサービスをしているとは思ってないわけです。ですが、経営破綻という事実を突きつけられている。その再建の舵取りを任された新会長の言葉ですから、外からは、そう見えるということですよね。そのことに自ら気づくことさえできなかったわけですから、会社の状態はかなり深刻だったということだと思います」
当時のJALは、個々の社員という「点」では機能していた。だが、組織という「面」から見ると機能不全に陥っており、しかも誰も気がついていない。稲盛氏は、それを見抜き、ズバリと指摘したのだ。
●具体的な取り組み1 経営層の意識を変える
会長に就任した稲盛氏は、路線ごとの収支を把握するため、役員に直近の数字を出すように伝えた。しかし、数字はなかなか出ず、ようやく出ても数カ月前のもの。稲盛氏は、「いったいどんな経営をしてきたのか」と怒り心頭だったという。 最初は、稲盛氏の厳しい発言に反発を覚えていた社員たちも、一つ一つの指摘に応えられず、徐々にその真意を理解していくことになる。稲盛氏は、このような状況はリーダーの自覚不足が原因と言い、そこからリーダー教育に着手することになる。大西賢社長(当時。現会長)の意向で教育はトップ層から行うことになり、第1回は2010年6月、役員と部長を中心とした52名が集められた。
リーダー教育といっても、いまさらスキルやマネジメントの教育を行うわけではない。稲盛氏が常々言っていた「リーダーたるもの人格を高めなければならない」というマインド、稲盛氏の考え方を学ぶものである。