Column グローバルな突破力を持つ若きリーダーに聞く バングラデシュから始まる 世界を変える「最高の授業」
リアル版・漫画『ドラゴン桜』(三田紀房作)といえばピンとくる人もいるだろう。原作は落ちこぼれを東京大学に合格させる、元暴走族教師の話だ。
世界には優秀な頭脳を持ちながら、貧困のため大学に行けない子どもが大勢いる。彼らを救おうと立ち上がったのが、e-Education Project代表の税所篤快氏。早稲田大学4年生、弱冠24歳が世界に支援の輪を広げている。
若者たちが思わず惹き込まれる新しいリーダーシップ像を追った。
「落ちこぼれ体験」から生まれた社会貢献事業
「バングラデシュでドラゴン桜」2010年6月1日の朝日新聞に踊った見出しだ。教育が行き届かない貧しい村の子どもたちに、バングラデシュでナンバーワンの先生の授業をビデオで受けてもらう。さらにバングラデシュの東大ともいうべき、難関・ダッカ大学合格をめざす、というプロジェクトを取り上げたものだ。「e-Education」と名づけられたこのプロジェクトを立ち上げたのは、税所篤快氏(24歳)。早稲田大学教育学部の学生だ。
大学1年生の時、『チェンジメーカー』(日経BP社)、『グラミン銀行を知っていますか?』(東洋経済新報社)を読んで開眼。社会起業家になろうと決意した。日本人学生をグラミン銀行にインターンとして送り込み、社会起業家を育成する「GCMPプロジェクト」を、仲間と共に設立。自らも大学を休学、バングラデシュ、グラミン銀行のインターン生として活躍している。
現地で働きながら思いついたのが、このプロジェクトだった。「村の学校をリサーチしている時、子どもたちがちゃんとした授業を受けていないことに気づいたんですよ。バングラデシュでは無償で初等教育を受けられるんですが、生徒数に対し教師が4万人も不足している。無資格の教師も多く、英語を受け持っているのに英語が話せない先生もいましたね」
村の子どもたちにとって、富裕層子女との決定的な違いがもうひとつあった。学費がなく、塾に通えないことだ。日本と同様、バングラデシュにも厳しい学歴競争が存在する。教育格差はそのまま貧富の差となり、高等教育を受けていない人々の年収は、大卒のそれの6~10分の1以下にとどまる。そのことを知った時、「彼らの境遇にかつての自分の姿が重なった」と彼は振り返る。
「僕自身、高校時代は落ちこぼれでした。学校は墨田区にあったのですが、先生の授業にちっとも関心が持てなくて。ところが3年生の時、東進ハイスクールの映像授業に出会った。講師の授業をDVDに収録したものですが、試聴してみたらこれがめちゃくちゃ面白い。しかも、いつでもどこでも何回でも視聴できるわけです。おかげで早稲田大学に合格したわけですが――。あの時ですよね、教え方ひとつで人がどれほど変化するか、身をもって知ったのは」
同じ仕組みをバングラデシュで生かせたら、とひらめいた。「電気もろくに通っていない村で、映像授業なんかできるわけがないだろう」。グラミン銀行でプレゼンしたところ、提案はあえなく却下された。「それでも、根拠のない自信があったんですよね。自分の原体験もあって、企画のインパクトが腹落ちしていた、というのかな。(一橋大学の)米倉誠一郎先生が常々、『新しい組み合わせがイノベーションになる』とおっしゃっています。日本では別に新しい技術じゃなくても、途上国に持っていけばイノベーションになりうると確信していました」