Opinion 2 企業人としての「人間力」 リーダーをめざそう 「志」次第で誰でもなれるのだから
カリスマも、強さも、絶対的な条件ではない。むしろ弱くても良きリーダーとなって部下や組織を成長へと引っ張っていける。そう語るのは、ザ・ボディショップやスターバックスコーヒーなどでCEOを務め、リーダーシップを執ってきた岩田松雄氏だ。
リーダーシップは生まれつきの資質ではなく、人間力を育むことで誰でも高めていけるもの。あらゆる組織がリーダーを求めている今、全ての人がリーダーをめざすべきであるし、誰でもなれるという。自らの経験をもとに、今までになかったリーダーシップ像を岩田氏が語る。
弱くてもなることができる新しいタイプのリーダー
大多数の人はリーダーシップについて大きな誤解を抱いているようだ。リーダーとは生来のカリスマタイプがなるもので、自分は初めから向いていないと思い込んでいるのではないだろうか。確かに、「オレが、オレが」と前に出るリーダーは目立つから、マスコミも好んで取り上げる。けれども強いがゆえの弱点もあるのではないだろうか。強さも度を超せば、自分がヒーローになりたいという私心が勝りがちだ。世間では、カリスマ型のリーダーが退いた途端に、勢いをなくす企業の例もたくさんある。
私は経営書『ビジョナリー・カンパニー』(日経BP社)が大好きだ。その中でリーダーのあり方を示している「第5水準のリーダー」というくだりは何度も読み返してきた。それは、人間としての謙虚さと、職業人としての地道にやり抜く姿勢を合わせ持つ経営者のことだ。控え目である点は、昔から東洋でも言われてきたリーダーの理想像とも重なる。そして自分よりもまず組織を重視する点も共通していて興味深い。
リーダーとは組織を良くするために巡ってきた役割なのだと受け止めることができれば、謙虚にもなれるだろう。CEOだけでも、また社員だけでも組織が成り立たないように、それぞれのポジションをしっかり守るから良い方向へと向かえる。CEOだから偉いとか、特別な地位だとかいうことはなく、CEOという役職を全うすることに意義がある。大切なのは組織が良い方向へと進んでいくことで、誰がリーダーになろうと構わないのではないだろうか。
私自身は決して強いタイプのリーダーではなかった。にもかかわらず、ザ・ボディショップやスターバックスといった企業のトップに40代だった私がなれたのは、周りの人たちが推してくれたおかげだ。もちろん強いリーダーシップを発揮しなくてはいけない場面もあった。けれども、そういう時には補佐役に助けてもらいながら行った。そして厳しい局面を抜け出たら、自分本来の支援型のリーダーシップで組織を運営してきた。自分の弱さをさらけ出し、そのうえで自分らしいリーダーをめざせばよいと思う。自分の弱さを認めることができ、組織を良くしていこうという気持ちを持っていれば、人の気持ちがよくわかるリーダーになれるだろう。
誰もが育てることができるリーダーとしての「志」
私が日本法人の社長を務めたザ・ボディショップの創設者アニータ・ローディック氏は、優れた企業家であると同時に、自然環境や企業モラル向上に努めた活動家でもある。天然原料をベースに、化粧品を開発し、化粧品の安全性確認のための動物実験に反対した。生産過程でも立場の弱い生産者と適正価格で取引を行うフェアトレードを開始し、社会問題を解決するために大きな貢献をした。
そんなアニータの志も、初めから大きかったわけではないだろう。ビジネスを大きくしていくうちに、社員の皆さんの働きがいや、社会の問題を解決することへと関心が広がっていった。最初から優れたリーダーなど滅多にいない。リーダーシップは生まれ持った特質ではなく、少しずつ自分で育んでいくものだと思う。