Opinion 1 謙虚さが人を育てる 偉人を知ることで学ぶリーダーの「人間力」
作家の北康利氏は、『白洲次郎 占領を背負った男』『同行二人 松下幸之助と歩む旅』『福沢諭吉 国を支えて国を頼らず』など、大きな仕事を成し遂げ、人間的にも魅力をたたえた先人たちに関する評伝で名高い。そんな北氏に、時代を超えて普遍的な「リーダーの人間力」とは何であるのか、ビジネスパーソンがリーダーとして人間力を高めるためにできることなどを伺った。
先人に学び、この国に誇りを持つ
金融マンだった私が作家に転じたのは、父親の他界がきっかけであった。この先の自分の人生をより豊かに、社会に貢献するものにしたいと考えるようになった。それで故郷である兵庫県三田市の町おこしに興味を持ち、やがて三田市には白洲次郎と正子の墓があることを知る。そこから白洲次郎について執筆するようになった。文学部出身ではない、ビジネス界出身の私ならではの視点で、ビジネスパーソンに示唆を与える作品を書いていきたい。そして白洲にせよ、松下幸之助にせよ、西郷隆盛にせよ、その時々の社会に対するメッセージに富んだ人物を題材として取り上げるようにしている。
なぜ、過去の偉人を取り上げるのか。歴史家E・H・カーは、「歴史とは過去と現代の対話である」と言っている。実は、日本人は先人に学ぶ習慣が乏しい。諸外国と比較しても、日本では評伝や伝記の類の出版物が少ないのだ。しかし、過去の人物をいろいろと調べていると、日本には尊敬に値する人はたくさんいることがわかる。偉人に触れた時、人は謙虚になる。人が成長するのは、まさに謙虚になった時である。そして、この国にそうした偉人がいることがわかると、やがてこの国に誇りを持ち、この国を愛するようになってくる。
私は、国家も地域社会も企業も、ガバナンスの要諦は「愛」であると思っている。その愛とは、「先人がいた」ということに基本がある。尊敬できる先人と自分とのつながりを感じることから生まれるのだ。これから企業や社会でリーダーになっていく若い人が私の評伝を読み、「自分がやらねば」と奮い立つことがこの国への貢献になる。そうなってくれれば何よりである。
先人に学ぶ「人間力」
優れた政治家は必ずしも政治学者ではなく、優れた経営者は必ずしも経営学者ではないが、政治家でも経営者でも、優れたリーダーは皆「人間学者」である。すなわち、人間の本質に通暁しており、欲望、嫉妬、行動パターンを知り抜いている。自然科学と同様に、「人間学」のような社会科学の場合にも、過去の研究蓄積に学び、そこから積み上げていかなければならない。だからこそ本を読み、人と会わなければならない。勉強を軽視してはならないのだ。誰しも若い頃は、白紙のようなものだ。人脈も経験も少なく、先を読むことができない。しかし、学びを深めるにつれ、目線の次元が上昇し、「イーグルアイ」(慧眼)を獲得し、だんだんと先が見通せるようになっていく。そうして先が読めるようになってくると、危機管理・先見性・情報収集力が高まってくる。競争で「勝てる」ようになる。すると、求心力がついて、人が集まってくる。