連載 ここから始める! ポジティブメンタルヘルス 第7 回 職場で対応に困るうつ病事例の特徴と対応のポイント
依然として悩ましい職場のメンタルヘルス問題。“ 未然防止”が重要になる今、人事部門がどう考え方を見直し、動けばいいかを、すぐ使える具体的なツールも含めて紹介する連載です。
1. はじめに
近年、職場の産業保健スタッフや人事労務担当者の方々から、職場で見られるうつ病の従業員の特徴が変わってきたことが指摘されています。
従来のうつ病は、典型的には40 ~50 代での発症が多く、真面目で几帳面で自分を責める傾向が強い従業員が「会社に迷惑をかけたくない」という思いから無理をして体調を崩してしまう、といったものでした。しかし、近年指摘されるうつ病と発症する従業員の特徴は、そうした従来の姿とは大きく異なります。
近年見られるうつ病の特徴的なエピソードとしては、30 代前後のわりと若い世代での発症が多く、うつ病と診断されて休業中であっても私的な飲み会などに参加して職場の同僚に目撃されたり、旅行や遊びに行った様子がブログやTwitterなど、インターネット上に書き込まれ、それを見た上司や同僚を驚かせる。一方で仕事のこととなると、うつ病になった原因は職場の上司や同僚にあると、他人を責めるような言動をしたり、なかなか復職への意欲が湧かず、長期の休業を経ても体調が安定せず、やっと復職してもまたすぐに体調を崩してしまう、といったものです。このような特徴から、職場では「わがまま」「自分勝手」だと誤解され、周囲から否定的な感情を持たれることで、より病状が不安定になる、といった事例も見られます。
こうした、従来型のうつ病の基本対応である「休養と服薬」が奏効せず、職場での対応もより困難であるといわれる、うつ病または抑うつ症状を呈する事例は、「新型うつ病」といわれることがあります。しかし、「新型うつ病」という言葉は医学用語ではなく、誤解を招く不適切な表現との意見が多いため、専門家の間では、「新型うつ病」という呼称の使用は避けています。こうしたいわゆる「新型うつ病」事例への考察としては、これまでに、ディスチミア親和型うつ病※1、現代型うつ病※2、未熟型うつ病※3、逃避型抑うつ※4、などが提唱されており、共通の特徴として、①発症年齢が若い(30 歳前後)、②うつ症状は軽症の場合が多い、③自責的傾向は目立たず逃避傾向が見られる、などが挙げられています※5。しかし、現状ではこの事例に有効な治療法は確立されておらず、職場で有効となる具体的な対応法についてもあまり検討されていません。
そこでTOMH 研究会では、上記のような「職場で対応に困るうつ病」事例について、産業精神保健の専門家や複数の企業の産業保健スタッフ、人事労務担当者の方々から情報収集を行い、対応に困った点を類型化し、職場で対応に困るうつ病事例の行動特性を明らかにすることに取り組みました。そして、その結果をもとに、事例の行動特性を評価し、職場での対応に役立てられる「職場で対応に困るうつ病事例の行動チェックリスト」を作成しました。
本稿では、類型化から整理された結果と、結果をもとに作成された行動チェックリストを紹介します。